第1回 皮膚症状の完全消失がより現実的な治療ゴールに

第1回 皮膚症状の完全消失がより現実的な治療ゴールに第1回 皮膚症状の完全消失がより現実的な治療ゴールに

多田

近年の乾癬治療の進化に伴い、治療目標を乾癬の標準的な評価であるPASI(Psoriasis Area and Severity Index)75よりもPASI90あるいはPASI100とするべきではという流れができ始めているように思います。これからの乾癬の治療ゴールについてRubel先生のご見解を教えてください。

Rubel

わが国のAustralian College of Dermatologist(ACD)が推奨している乾癬の治療ゴールは、治療開始時の重症度と比較して75%以上のPASIの改善とDLQI(Dermatology Life Quality Index)が5以下と定義されています。これまでに乾癬治療薬として数多くの生物学的製剤が開発されていますが、これらの中には近年に開発されたビンゼレックス®のようにPASI75を超えてPASI90やPASI100を指標とした場合でも高い有効性を示す製剤が登場してきました。したがって今後乾癬における治療ゴールは、PASI90あるいはより高い治療アウトカムであるPASI100でさえもが現実的な目標となっていく可能性が見えてきていると思います。

多田

皮疹の完全消失を望む患者さんは非常に多いです。日本で実施された生物学的製剤未治療の乾癬患者に対するインターネット調査によれば、ニーズの高い方から「乾癬の皮膚症状を完全になくしたい」78%、「即効性のある治療を試したい」50%、「効果の高い治療を試したい」43%、「副作用がなく、安全な治療を受けたい」39%という結果でした(図1)。このように、皮膚症状の完全消失に対するニーズが最も高く、多くの患者さんがPASI75達成では満足されていないことが示唆される結果でした。

図1

Rubel

米国で中等度から重度の尋常性乾癬患者500名を対象に実施された横断研究1)では、「皮疹の完全消失を実現できる確率が高い治療」94%、「痒みと痛みを消失させる治療」94%、「即効性のある治療」90%などに対して患者さんの高いニーズが示されています。私が乾癬患者さんを診療しているオーストラリアでも、皮疹の完全消失に対する患者さんのニーズは非常に高いです。

私は日常診療で患者さんが自由に発言できる雰囲気作りを意識していますが、患者さんからは「乾癬があることで自分は他の人とは違うと感じる」、「日常生活で不便を感じる場面や偏見に晒される場面が多い」という悩みをよく聞かされます。夏の暑い日でも肌の露出が少ない長袖やロングスカートを着用し、プールや海で水着を着ることもできない、銀白色の鱗屑が目立たない色合いの服を着用しなくてはならない、他人から怪訝そうな眼差しを向けられるなど、患者さんの話を聞くと、この病気が患者さんを精神的に苦しめていることを思い知らされます。

多田

日本では乾癬治療のピラミッド計画2)という治療指針が普及しています。治療の基本は活性型ビタミンD3やステロイドによる外用療法であり、効果不十分の場合に光線療法への切り替えや外用療法と併用します。皮膚症状が比較的重い場合には、アプレミラスト、レチノイド、シクロスポリン、メトトレキサート(MTX)などの内服薬を用います。MTX内服薬は乾癬の適応症を近年取得したばかりなので、日本の皮膚科医での使用経験はまだ少ないようです。これらの治療法で十分な効果が得られず、皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ場合や、難治性の皮疹あるいは膿疱を有する場合は生物学的製剤を用います。オーストラリアにおいても同じような治療方針でしょうか。

Rubel

オーストラリアではPBS(Pharmaceutical Benefit Scheme)という医薬品給付制度が存在します。政府が定めたPBSリストに掲載されている医薬品が対象で、メディケアカードを保持しているオーストラリア居住者が利用できるもので、一般的な患者自己負担額は薬価に関係なく医薬品給付あたり一律40オーストラリアドルです。したがって薬価の高い生物学的製剤を処方しても患者負担は大幅に軽減されます。既存薬でPBSリストに掲載されている薬はアプレミラスト、MTX(メトトレキサート)、シクロスポリン、Acitretin(日本未承認薬)ですが、最初に考慮されるのはMTXとAcitretinです。生物学的製剤がPBSの恩恵を受けるためには、これらの既存薬のうち少なくとも2つの薬剤に対して効果不十分かつPASIスコアが15以上という制約があります。先に述べたように、現在では生物学的製剤でPASI100を治療目標にすることが可能となってきていますので、トップダウン療法が行えるようにPBSの制約の変更を求めるロビー活動をしています。
*2023年1月より30オーストラリアドルに引き下げられました

多田

日本とオーストラリアでは医療制度に違いがあるものの、目指すゴールとしてPASI100をも視野に入れ、より高い治療アウトカムを目指して治療を行っているということですね。

Rubel

PASI90やさらに高いPASI100をも目指す意義は、単に皮疹の消失という意味合いだけではありません。乾癬は人間関係、社会活動、精神的健康など生活のあらゆる面に影響を及ぼす疾患ですから、社会的、経済的および精神的影響は時間の経過とともに蓄積されていく負の要素になり得ます。この観点からの興味深い研究報告3)を紹介したいと思います。患者さんの生涯にわたる持続的な影響について、スティグマなどの社会的要因、うつや不安などの精神的要因、瘙痒や疼痛などの身体的要因を生涯累積障害(CLCI: Cumulative Life Course Impairment)としてスコア化した研究です。この手法を用いると、乾癬患者さんの苦しみを縦断的側面から数値で捉えることが可能となります。発症からの年数が長引いていくほどCLCIスコアはどんどん高値になっていきます。そのため、発症年齢が若い患者さんほど乾癬の悪影響が蓄積されていくことが理解できます。このような視点からも、乾癬の疾患コントロールを早期に達成することがいかに重要なのかを再認識できるのではないでしょうか。

多田

即効性があり、有効性の高い医薬品を最初から使用することで、患者さんにとってのベネフィットに繋がるということですね。

Rubel

その通りです。今後、そのような流れになっていくと思います。

Rubel

References

  • 1)Gorelick J. et al.:Dermatol Ther (Heidelb). 9:785-797, 2019.
  • 2)飯塚一:J Visual Dermatol. 16:850-851, 2017.
  • 3)Kimball AB. et al.:J Eur Acad Dermatol Venereol. 24:989-1004, 2010.

ビンゼレックス®製品基本情報

ビンゼレックス®の製品基本情報はこちらからご確認ください。
添付文書やインタビューフォーム、製剤写真をダウンロードすることができます。

JP-BK-2300163