重症筋無力症(MG)の評価法
MGの重症度やQOLの評価には以下の評価指標が用いられます。MGの症状の評価は難しく、これらの定量的評価尺度は極めて重要です1)。
このほか、リスティーゴⓇの臨床試験では重症度を評価する新たな指標として、「MG症状Patient Reported Outcome(PRO)」が用いられています。
MGFA分類は、2000年にMGFA(MG Foundation of America)が提唱したMG症状の重症度クラス分類です。最重症時の状態によりMG患者を分類する分類法であり、治療評価には用いられません。クラスⅠ~Ⅴに大別します1)。 眼筋筋力低下のみを有する場合はクラスⅠに分類され、眼筋以外の筋力低下を有する場合は、全身症状の程度によりクラスⅡ~Ⅳに分類されます。クラスⅡ~Ⅳは、四肢筋あるいは体幹筋の症状、口咽頭筋あるいは呼吸筋の症状の有無により、さらにa、bに分類されます。 MGFA分類は最重症時の状態による分類であるため、たとえば、現在無症状であっても、過去にクリーゼを起こして気管内挿管を受けたことがあれば、クラスVとなります1)。 (Jaretzki A 3rd, et al. Neurology 2000; 55: 16-23. より作成) 「日本神経学会 監修:重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022, p.26, 南江堂, 2022」より許諾を得て転載. MG-ADLスケールは、主に患者の申告をもとに評価する定量的な重症度評価スケールで、直近の生活上の症状レベルをおおまかに把握することができます1)。 会話、咀嚼、嚥下、呼吸、歯磨き・櫛使用の障害、椅子からの立ち上がり障害、複視、眼瞼下垂に関する8項目の質問について、それぞれ0~3点(合計0~24点)で評価し、点数の合計が高いほど、日常生活へのMGによる症状の影響が大きく、重症と判断されます1,2)。 MG-ADLスケールの合計2点以上の改善は、臨床的に意義のある改善とみなされます2)。 MG-ADLスケールはこちらからダウンロードできます。 QMGスコアは、客観的評価法を用いた定量的重症度評価です1)。 右方視、左方視時の複視出現までの時間や、上方視時に眼瞼下垂が出現するまでの時間など13項目を測定し、「正常(0)」、「軽度(1)」、「中等度(2)」、「重度(3)」の4段階(合計0~39)で評価します。スコアの合計が高いほど、重症と判断されます1,3)。 QMGスコアの合計3以上の改善は、臨床的に意義のある改善とみなされます3)。 QMGスコアはこちらからダウンロードできます。 MG composite scale(MGCスケール)は、MG-ADLスケールとQMGスコアの長所と短所をふまえて考案された定量的重症度評価です1)。 上方視時の眼瞼下垂出現までの時間や側方視時の複視出現までの時間などを含む10項目の回答選択肢に重みづけをすることで、MGの状態をよりよく反映し、意味のある臨床的変化に対応できるようなスコアが得られるとされています。点数の合計が高いほど、重症と判断されます1,4)。 MG composite scaleの合計3点以上の改善は、臨床的に意義のある改善とみなされます5)。 MG composite scaleはこちらからダウンロードできます。 MGFA Postintervention Statusは、治療介入後の臨床状態を評価する尺度です1)。
MGの治療が開始された後に、任意の時点における臨床状態を評価するために作成されました6)。治療効果をCSR(完全寛解)、PR(薬理学的寛解)、MM(軽微症状)、I(改善)、U(不変)、W(増悪)、E(再燃)、D(MG関連死)に分類します1)。
最近では、臨床研究や治験の評価項目として、日常生活に支障のない、満足な改善レベルを示すMM or better statusというカテゴリー用語(MM、PR、CSRをまとめた概念)がQOL解析の結果から用いられるようになっています1)。 「MG-QOL15r」は、MG患者のQOLを評価するための質問表です。2008年に米国Muscle study groupから発表された「MG-QOL15」の改訂版として、2016年に発表されました。日本語版として、「MG-QOL15t-J(重症筋無力症 生活クオリティー質問票)」が発表されています。 「MGの病状に不満である」、「MGのため物を見る際に支障が生じる(二重に見える、まぶたが下がる、など)」などの15項目の質問について、それぞれ「まったくそうは思わない(0)」、「少しそう思う(1)」、「強くそう思う(2)」の3段階(合計0~30点)で評価し、点数の合計が高いほど、QOLが低いと判断されます1,7)。 MG-QOL15r-Jはこちらからダウンロードできます。 リスティーゴⓇの臨床試験では、より詳細な筋力低下と疲労の評価のために、全身性エリテマトーデス用に開発された既存のPROツールである「FATIGUE-PRO」の身体疲労スケール項目を参考に、患者評価による「MG症状Patient Reported Outcome(PRO)」を新たに開発され、採用しています8)。 MGの重症度を決めるうえで重要な側面を、「筋力低下疲労」、「身体疲労」、「球筋力低下」、「眼筋力低下」、「呼吸筋力低下」の5つの分類(計42項目)で評価します。各スケールのスコアは0~100であらわされ、スコアが高いほど症状は高頻度かつ重症であることを示します8,9)。 各スケールのスコアは、患者からの回答スコアから0~100の範囲になるように算出されます。 社内資料:国際共同第Ⅲ相二重盲検比較試験 MG0003試験(承認時評価資料)より改変MGFA分類
Class I
眼筋筋力低下。閉眼の筋力低下があってもよい
他のすべての筋力は正常
Class II
眼筋以外の軽度の筋力低下
眼筋筋力低下があってもよく、その程度は問わない
 
II a
主に四肢筋、体幹筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽い口咽頭筋の障害はあってもよい
II b
主に口咽頭筋、呼吸筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽いか同程度の四肢筋、体幹筋の筋力低下はあってもよい
Class III
眼筋以外の中等度の筋力低下
眼筋筋力低下があってもよく、その程度は問わない
 
III a
主に四肢筋、体幹筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽い口咽頭筋の障害はあってもよい
III b
主に口咽頭筋、呼吸筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽いか同程度の四肢筋、体幹筋の筋力低下はあってもよい
Class IV
眼以外の筋の高度の筋力低下、眼症状の程度は問わない
 
IV a
主に四肢筋、体幹筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽い口咽頭筋の障害はあってもよい
IV b
主に口咽頭筋、呼吸筋、もしくはその両者をおかす
それよりも軽いか同程度の四肢筋、体幹筋の筋力低下はあってもよい
Class V
気管内挿管された状態。人工呼吸器の有無は問わない
通常の術後管理における挿管は除く
挿管がなく経管栄養のみの場合はIV bとするMG-ADLスケール
QMGスコア
MGCスコア
MGFA Postintervention Status
MG-QOL15r
MG症状Patient Reported Outcome(PRO)
<文献>
- 1
- 日本神経学会 監修:重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022, p.25-30, 50-53, 南江堂, 2022
- 2
- Muppidi S et al.: Muscle Nerve. 2011; 44: 727-731
- 3
- Barohn RJ et al.: Ann NY Acad Sci. 1998; 841: 769-772
- 4
- Burns TM et al.: Muscle Nerve. 2008; 38(6): 1553-1562
- 5
- Burns TM et al.: Neurology. 2010; 74: 1434-1440
- 6
- Jaretzki A 3rd, et al.: Neurology. 2000; 55(1): 16-23
- 7
- Burns TM et al.: Muscle Nerve. 2016; 54:1015-1022
- 8
- Cleanthous S et al.: Orphanet J Rare Dis. 2021;16(1): 457
- 9
- ClinicalTrials.gov. https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03971422