重症筋無力症(MG)の診断基準
MGの診断は日本神経学会の「重症筋無力症診断基準2022」に基づいて行われます1)。
「診断基準2022」には A. 症状、B. 病原性自己抗体、C. 神経筋接合部障害、D. 支持的診断所見、E. 判定の項目が含まれます。
A~Cを基準にすることは診断基準2013と同様ですが、診断基準2013からの変更点として、診断基準2022ではD.支持的診断所見として「血漿浄化療法によって改善を示した病歴がある」ことが追加され、E.判定に「Probable」が設定されました。これは、以下の問題に対応するためです1)。- 感度の高い単線維筋電図の普及が不十分である現状では神経筋接合部障害が証明できないためにMGと診断されず、適切な治療を受けられないdouble seronegative(DS-MG)※症例の存在が考えられること。
- DS-MG症例の中に、単線維筋電図などで神経筋接合部障害が証明された先天性MGなどが紛れ込む可能性があること。
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- double seronegative(DS-MG)
- 抗AChR抗体および抗MuSK抗体の両方が陰性のMG。
重症筋無力症(MG)の検査
- MGの検査には、病原性自己抗体の検査として血液検査、神経筋接合部障害を判定する項目として眼瞼の易疲労性試験、アイスパック試験、エドロホニウム(テンシロン)試験、反復刺激試験、及び単線維筋電図検査があります1)。
- 胸部X線及びCT検査で胸腺腫合併を確認します1)。
病原性自己抗体の検査(血液検査)
血液検査では、MGの病原性自己抗体である抗AChR抗体と抗MuSK抗体の有無を調べます。
国内の13施設、1,710例のMG患者を対象として2021年に実施されたJapan MG Registry study(JAMG–R)によると、対象患者の82%が抗AChR抗体陽性、3%が抗MuSK抗体陽性でした2)。抗AChR抗体及び抗MuSK抗体の両方が陰性の場合はDS-MGとなります。
神経筋接合部障害の検査
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眼瞼の易疲労性試験
患者さんに上方視を約1分程度まで続けてもらい、その後、眼瞼下垂が出現または増悪した場合に陽性となります1)。
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アイスパック試験
冷凍したアイスパックを眼球に押し当て、眼瞼下垂が改善すれば陽性となります。MG以外の疾患では陽性になりにくいとされています1)。
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エドロホニウム(テンシロン)試験
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エドロホニウム※を静脈内投与し、眼瞼のMG症状の改善を確認します。これにより改善がみられれば陽性となります1)。
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- エドロホニウム
- 効果の持続時間が短い抗コリンエステラーゼ薬で、投与後の眼筋等の脱力状態の回復の有無により、MGの診断に使用される3)。
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反復刺激試験(誘発筋電図検査)
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反復刺激試験は、体表に電極をあてて、電気刺激をくり返す(反復刺激)検査です。ある程度の大きさをもった表面筋電位を捉えるもので、これを複合筋活動電位(compound muscle action potential:CMAP)といいます4)。
MGでは反復刺激によりCMAPの振幅が漸減するWaning(ウェイニング)現象がみられます※1。通常、刺激頻度3Hzで10回の電気刺激を行い、減衰率が10%以上になった場合を異常とします。3Hzの刺激では4あるいは5発目でアセチルコリンの放出量が最低になるため、1発目に対する4あるいは5発目の比率を減衰率と定義します1)。
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- Waning現象は随意収縮でも起こります。
- 複合筋活動電位
- 多数の運動単位(一つの運動ニューロンとそれによって支配される筋線維群のこと)で誘発される筋電位の集合体4)。
- 減衰率
- 第1刺激によるCMAPの振幅に対する、後続するCMAPのうち最小振幅の割合(%)1)。
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単線維筋電図(single fiber electromyogram:SFEMG)検査
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SFEMG検査は個々の筋(筋線維)の活動電位を記録し、神経筋伝達の機能を調べる検査法で5)、通常、前頭筋、眼輪筋、総指伸筋において行います1)。神経筋接合部障害の検査(眼瞼の易疲労性試験、アイスパック試験、エドロホニウム試験、反復刺激試験、及び当検査)の中で最も高感度ですが、陽性の場合には他疾患との鑑別が必要です。陰性的中率が高いため、複数の筋でSFEMGを記録した結果が正常所見であれば、MGは極めて否定的です。針筋電図のため痛みを伴います1)。
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胸部X線、胸部CT
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2018年の日本の全国疫学調査において、MG患者の22.4%が胸腺腫を合併していることが報告されています6)。胸腺腫合併例には基本的に全例で胸腺摘除術の適応となり1)、治療方針にかかわるため、胸部X線検査、CT検査で胸腺腫合併の確認を行います4)。胸腺腫は低悪性度の胸腺の腫瘍で、種々の自己免疫疾患との合併が報告されていますが、MGとの合併が最も多いとされています1)。
なお、CT撮影時の造影剤によりMGの増悪をきたすことがあります1)。
成人重症筋無力症(MG)のサブタイプ分類
成人MGは、①OMG、②g-EOMG、③g-LOMG、④g-TAMG、⑤g-MuSKMG、⑥g-SNMGの6つのサブタイプに分類されます。
眼瞼下垂や複視だけを呈するMGは、自己抗体の有無、胸腺腫の有無を問わず眼筋型 MGに分類されます1)。MG患者の約半数が眼筋型MGとして発症し、うち50~60%が発症2年以内に眼筋型から全身型MGに進展するといわれています1,7-9)。
全身型MGは、自己抗体の有無、胸腺腫の有無により5つのサブタイプに分類されます。全身型MGのうち、AChR 抗体陽性MGは②早期発症 MG(g-EOMG)(発症年齢<50 歳)、③後期発症 MG(g-LOMG)(発症年齢≧50 歳)、④胸腺腫関連 MG(g-TAMG)の3つに分けられ、さらに、AChR 抗体陰性MGは ⑤MuSK 抗体陽性 MG(g-MuSKMG)、及び⑥抗体陰性 MG(g-SNMG)に分けられます1)。
国内の13施設、1,710例のMG患者を対象としたJapan MG Registry study(JAMG–R)によると、対象患者における6つのサブタイプの割合は以下の通りでした2)。
<文献>
- 1
- 日本神経学会 監修:重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022, p.5-6, 20-24, 31-33, 116-117, 南江堂, 2022
- 2
- Suzuki S et al.: Clin Exp Neuroimmunol. 2023; 14: 5–12
- 3
- アンチレクス 電子化された添付文書 2021年6月改訂(第1版)
- 4
- 医療情報科学研究所 編: 病気がみえる vol.7 脳・神経 第2版, 重症筋無力症, p392, 筋電図・神経伝導検査, p571-583, メディックメディア, 2017
- 5
- 今井 富裕: 日内会誌. 108(11): 2019; 2356-2360
- 6
- Yoshikawa H et al: PLoS One. 2022; 17(9): e0274161
- 7
- Benatar M, Kaminski HJ.: Cochrane Database Syst Rev. 2006; CD005081
- 8
- Benatar M, Kaminski HJ. Neurology. 2007; 68(24): 2144-2149
- 9
- Evoli A, et al.: Neuromuscul Disord. 2001; 11(2): 208-216