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高齢者てんかんの問診

高齢者てんかんの発作型

てんかんの発作型は全般起始発作(全般発作)及び焦点起始発作(部分発作)の大きく2つに分類されますが、高齢発症てんかんの発作は94%が焦点起始発作です1)。さらに、高齢発症てんかんの発作の45%はけいれんを伴わない「焦点意識減損発作(複雑部分発作)」であるといわれています1)。つまり、高齢者てんかんの診断にあたっては、けいれんだけでなく、けいれんを伴わない発作に気づくことが必要ですが、発作中に患者さんは意識がなく、発作のことを覚えていない可能性もあるため、患者さんへの問診だけでなくご家族やケアギバーなど周囲の方へも聴取することによって、患者さんの発作の様子や自動症などの前後の症状の有無などを積極的に把握することも重要です。発作型によって適した抗てんかん薬は異なるため、発作型を適切に診断することは大切です。

高齢発症てんかんの主な発作型
高齢発症てんかんの主な発作型 高齢発症てんかんの主な発作型

【対象・方法】2005年3月1日から2011年6月30日に産業医科大学てんかん専門外来を受診した65歳以上発症のてんかん患者80例を対象に診療録を用いて後方視的に調査した。

田中章浩:神経治療学. 30(3), 296-300, 2013より改変

高齢者てんかんの発作の特徴

高齢者てんかんに多い焦点意識減損発作(複雑部分発作)では、ぼんやりと一点を見つめるように動作が停止する「一点凝視」や「動作停止」などの症状がよくみられます。また、手足や口に「自動症」と呼ばれる症状を伴うことが多く、無意識に手をモゾモゾさせ衣服をいじったり、口をモグモグさせたりといった症状が特徴です。その後、全身けいれんに移行する焦点起始両側強直間代発作(二次性全般化発作)となる場合もありますが、全身けいれんに移行しない場合は、発作は1~2分で終了します。患者さんによっては発作後のもうろう状態が数分~10分ほど続くことがあります2)

ぼんやりと一点を見つめるように動作が停止する

ぼんやりと一点を
見つめるように、
動作が停止する

無意識に手をモゾモゾ動かす

無意識に、
手をモゾモゾ動かす

口や舌・唇を無意識に動かす

口(モグモグさせる)や
舌・唇(クチャクチャ鳴らす)を
無意識に動かす

松本理器: 老年精神医学雑誌. 31(増刊-1), 101-106, 2020.より作成

問診のポイント

65歳以上のてんかん有病率は1,000人あたり10.3人ともいわれており3)、外来で他の疾患を治療する目的で来られている患者さんの中にも、てんかん患者さんがいる可能性があります。また、高齢者てんかんの症状の特徴から、「てんかん=けいれん」とは限らないことを念頭に置き、問診を行う必要があります。
問診時には、高齢者てんかんによくみられる症状を想像しながら、「てんかん発作じゃないか?」と疑うことから始めます。患者さんのみならず、ご家族からも発作に関する情報を聴取し、「その症状のてんかん発作らしさ」を十分に検討します。発作症状の聴取には、より具体的な状態を提示して尋ねたり、発作の真似をしたりなど、患者さんが発作時の様子をイメージできるようにすることでより正確な診断につながります。時に、発作症状を動画などで実際に見せてもらう手段を検討することも必要です。てんかんの診断には脳波検査やMRI検査なども実施しますが、問診で聴き取った情報は適切な診断・治療を行う上で重要であり、情報を総合的に判断することが大切です4)

●患者さんの症状を「てんかん発作じゃないか?」と疑う。

<てんかんにみられる主な症状>

  • ・全身の運動(いわゆるけいれんや激しい動き、ガクガク、バタバタ)
  • ・体の一部の運動
  • ・異常な肢位(姿勢発作、偏向発作)
  • ・意識障害±自動症
  • ・感覚症状(体性感覚、視覚、嗅覚・味覚、聴覚などの感覚症状、上腹部上行感など)
  • ・精神症状や高次脳機能(幻覚や感情、認知・記憶など)

●情報を集め、「その症状のてんかん発作らしさ」をさらに考える。

<患者さんやご家族から聴き出す情報>

  • ・発症年齢
  • ・発作の持続時間
  • ・意識障害の有無
  • ・発作前後にどんな症状を伴ったか
  • ・発作症状の組み合わせ
  • ・好発時間・発作の誘因
など

●問診は具体的な内容を患者さんに示す。発作の真似をして見せる。

<焦点発作の場合の例>

  • ・前兆
    「意識がなくなる前に、例えばみぞおちのあたりが気持ち悪くなるなどの、前兆はありませんか?」
  • ・発作の側方徴候
    「(手首を曲げて指を不自然に伸ばしている状態を見せながら)どっちかの手がこんな風になっていないですか?」

●発作症状を撮影できないかどうかを考える。

  • ・患者さんのご家族に、携帯電話などで発作を撮影してもらうことができないか?
  • ・長時間ビデオ脳波同時記録検査が行える施設で発作の確認ができないか?

●問診を十分に行った上での検査を意識する。

  • ・てんかんの診断には、問診が8割であり、情報を総合的に判定することが重要。

小出泰道: 「“てんかんが苦手”な医師のための問診・治療ガイドブック」 P.45-54, 医薬ジャーナル社, 2014.より作成

1)
田中章浩: 神経治療学. 30(3), 296-300, 2013.
2)
松本理器: 老年精神医学雑誌. 31(増刊-1), 101-106, 2020.
3)
Tanaka A. et al: Epilepsia Open. 4(1), 182-186, 2019.
4)
小出泰道: 「“てんかんが苦手”な医師のための問診・治療ガイドブック」 P.45-54, 医薬ジャーナル社, 2014.

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