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発作と種類

てんかん発作とは

「てんかん」と「てんかん発作」という用語は区別して用います。「てんかん」は慢性疾患の病名であり、その症状が「てんかん発作」です1)
通常、脳の神経細胞では、興奮を引き起こす系統と、抑制する系統がバランスよく働いています。「てんかん発作」は、それまで正常に働いていた神経細胞に問題が生じたときに起こります。興奮系の神経細胞が過剰に働いたり、抑制系の神経細胞が働かなくなったりしてバランスがとれなくなり、結果として脳の異常な興奮により「てんかん発作」が起こります2)

てんかん発作について
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.20-21 法研, 2022より作成

てんかん発作の誘因

てんかん発作は誘因なく突然出現することが多いのですが、特定の状況において発作が起こりやすくなる場合(非特異的誘因)や、特定の刺激によって発作が誘発される場合(特異的誘因)があります。いずれの誘因でどの程度発作が出現しやすくなるかは個々により異なります。
非特異的誘因は、特定のてんかん患者に限らず認められます。普段よりも発作の起こりやすい状態になりますが、ただちに発作が出現するとは限りません。
特異的誘因は、全てんかん患者の約6%にみられるといわれています。誘因の内容と、発作が誘発されるまでの時間によって、早期誘発と緩徐誘発に分けられます。

早期誘発
何らかの特定の感覚刺激によって直接(反射)的に発作が誘発され、多くの場合は数秒以内に起こります。
誘因としては光の点滅による視覚性が最も多く、木漏れ日やブラインドなどの模様凝視による誘発もあります。
緩徐誘発
特定の刺激や行為がしばらく続いた後に発作が起こります。
若年ミオクロニーてんかんでは計算や思考による発作誘発がみられることがあります3)
非特異的誘因 特異的誘因
早期誘発 緩徐誘発
非特異的誘因睡眠不足、飲酒、過呼吸、疲労、ストレス、月経・妊娠、抗てんかん薬の急激な変更や中断、血中濃度の低下、一部の向精神薬・抗うつ薬・抗ヒスタミン薬などの内服 特異的誘因 早期誘発視覚性:光の点滅、模様凝視、閉眼
聴覚性:予期せぬ音
知覚性:不意の接触
特異的誘因 緩徐誘発
精神活動性:計算、思考、意思決定、読書、パズル、ビデオゲーム
その他:摂食、音楽を聴く

対処法は、今までの発作が起こりやすかった状況を振り返り、どの誘因によって発作が発現しやすいかを知ることが重要です。できる限り誘因を避けるようにし、生活リズムを整えるよう心がけます。
非特異的誘因に関しては、抗てんかん薬の定期服用を心がけます。特異的誘因のうち、視覚性の発作では、サングラス着用や片眼遮蔽に発作予防効果があります。聴覚性と知覚性では、刺激がくるのを事前に知ることで発作を防げる場合があります。特定の行為による誘発では、避けられるものは避け、避けられない場合には集中しすぎないように心がけ、長時間は避けて適宜休憩を取るようにします3)

てんかん発作の分類

てんかん発作は、発作の始まる脳部位によって、「焦点(起始)発作」と「全般(起始)発作」の二つに分類されます。また、発作の症状だけでは脳のどこから始まったかがわからないものを「起始不明発作」と分類します。
焦点発作は、大脳の一部分が異常な電気興奮を起こすことで始まります。このうち、発作中に意識があり、後で発作を思い出すことができるものを「焦点意識保持発作」、発作中に意識がはっきりしなくなり、行動が止まり無表情になり反応がなくなるものを「焦点意識減損発作」といいます。
全般発作は、脳の広い部分が異常な電気興奮を起こすことで始まります。大脳の両側がいっせいに興奮状態となり、最初から意識を失う特徴があります。
また、焦点発作、全般発作、起始不明発作それぞれに体の動きに何らかの症状が出る「運動性」と、感覚に症状が出る「非運動性」があります2)

てんかん発作の分類
山内俊雄:「やさしいてんかんの本」 P.28, 保健同人社, 2009 より作成

てんかん発作と脳の働き

てんかん発作を引き起こすのは大脳です。大脳は、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉の4つの部分があります。てんかん発作は、異常な電気興奮が起きる場所により、症状が異なります。てんかん発作は、側頭葉の内部にある海馬から起こり始めることが多いとされています。
基本的に、てんかん発作は毎回決まった部位で起こるので、発作のたびに同じ症状が出ます。そのため、手のけいれんが起こる場合は手の動きを司る部位で過剰な神経の興奮が起こるというように、症状によって脳のどの部位で発作が起きているかがわかります2)
最も多いのは側頭葉てんかんであり、次いで前頭葉てんかんが多くみられ、後頭葉てんかん(4~13%)や頭頂葉てんかん(5~6%)は少ないとされています1)

てんかんは脳の過剰興奮を起こす場所によって発作の症状が異なる

てんかん発作と脳の働き
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.23, 法研, 2022より作成
大脳部位 役割2) 過剰な神経の興奮により起こる症状1,2)
大脳部位前頭葉 役割2)運動機能を司る
高度な情報処理
過剰な神経の興奮により起こる症状1,2)顔や手、足の一部のけいれん
大脳部位頭頂葉 役割2)皮膚や耳からの感覚情報の分析
空間認識する
過剰な神経の興奮により起こる症状1,2)皮膚のピリピリ感
変な音が聞こえる
ものが焦げたようなにおいがする
ひりひり感、しびれたような無感覚、熱感、痛み
大脳部位後頭葉 役割2)目で見た情報を認識する 過剰な神経の興奮により起こる症状1,2)光ったものが見える
視野が真っ暗になる
物の形が変わって見えたりする
大脳部位側頭葉 役割2)聴覚や言語、情緒などの精神機能や自律神経を司る
内部の海馬は記憶に関わる
過剰な神経の興奮により起こる症状1,2)不安感などの情動発作
吐き気を伴う自律神経発作
既視感などが起きる認知発作

前頭葉、頭頂葉、後頭葉、内側・外側側頭葉てんかんのその他の特徴1)

特徴
前頭葉てんかん
  • ・発作症状は、焦点間代発作、焦点強直発作、運動亢進発作の3つに分類される。
  • ・発作の持続時間が短い。
  • ・発作が群発する。
  • ・睡眠中の発作が多い。
  • ・急速な両側大脳半球への進展がみられる。
  • ・発作が両側大脳半球に及ぶと転倒に至る。
  • ・焦点意識減損発作の発作後もうろう状態が目立たない。
頭頂葉てんかん
  • ・頭頂葉てんかんは、焦点てんかんのなかでは頻度が低い。
  • ・体性感覚に関連した発作症状が特徴的であるが、半数以上でこれを欠くことがある。
後頭葉てんかん
  • ・視覚関連の発作症状は、目立たないか、伴わずに他の脳葉に伝播した段階で多彩な症状を呈する症例があるため、病歴聴取からは診断を誤る可能性がある。
  • ・病因として、限局性皮質異形成などが多い。
内側側頭葉てんかん
  • ・典型例では、熱性けいれん重積、外傷、低酸素脳症、中枢神経感染症などの既往を乳幼児期にもつことが多い。この後、潜伏期間(6ヵ月~30年)を経て焦点意識減損発作が初発する。
  • ・てんかん発症年齢はほとんどが20歳以前であり、4~16歳頃(平均10歳)が多い。
  • ・薬物治療で発作が一旦寛解することもあるが、再発すると難治に経過しやすい。
外側側頭葉てんかん
  • ・多くは脳腫瘍、皮質形成異常などの病変が側頭葉の外側皮質にみられる。
  • ・発症年齢が高く、熱性けいれんの既往は少ない。
  • ・自動症は少なく、発作の持続時間は短い。
  • ・焦点起始両側強直間代発作へ進展しやすい。
  • ・発作後のもうろうは少ない。
  • ・発作時脳波では内側型より両側化しやすい。
1)
日本てんかん学会 編:「てんかん専門医ガイドブック改訂第2版」 P.2, 284-293 診断と治療社, 2018
2)
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.20-21,22-23, 26-27, 法研, 2022
3)
井上有史、池田仁 編:「新てんかんテキスト-てんかんと向き合うための本 改訂第2版」 P.68-69, 南江堂, 2021

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