原因
てんかんの原因の種類
てんかんの原因はさまざまであり、2017年に国際抗てんかん連盟(ILAE)が発表したてんかん型分類は、大きく以下の6つの病因に分けられています。以前の原因による分類は、脳病変があるかないかで分けられており、ある場合を症候性、ない場合を特発性と呼んでいました。
旧分類の症候性は、原因のタイプにより構造的、感染性、免疫性、代謝性が属します。旧分類の特発性は、新分類では素因性と呼ばれ、てんかんになりやすい体質や遺伝素因をもつことにより発病します。病因はひとつだけでなく、重複していることもあります1-3)。
構造的 | 脳の構造異常によるもので、生まれつきの先天的なものと、脳卒中や外傷などによる後天的なものがある | 旧:症候性(脳に病変あり) |
感染性 | 脳炎、脳症、髄膜炎など、感染の結果としててんかんを発症するケース。構造的なものを伴うこともある | |
免疫性 | 原因と考えられる自己免疫性脳炎では、てんかんのほか自律神経障害や精神症状も報告されている | |
代謝性 | 生まれつき、いくつかの酵素が不足するライソゾーム病やガラクトース血症など先天性代謝異常などによるもの | |
素因性 | 遺伝子の異常が原因となっているが、原因遺伝子のほとんどは明らかになっていない | 旧:特発性(脳に病変なし) |
病因不明 | 検査でも異常がみつからず、原因が明らかになっていないケースで、てんかん患者の約6割を占めるとされる | ー |
てんかんの診断をした場合、その病因が6つのうちいずれなのかを、早期から検討します。実際的には最初に神経画像検査(MRI)を行い、構造的病因の有無を検討します。病因を同定することで、特異的な治療を含む有効な治療薬や外科手術など、その患者に適した治療方針を立てることができるため、てんかん診療の早期からの病因検索が重要です2)。
てんかんの原因別頻度
てんかんは原因不明なものが約3分の1を占めています。その他は、遺伝性や構造的なもので半分以上を占めますが、その詳細なてんかんの原因は多岐にわたり、てんかんの病因に寄与する遺伝子も多数確認されています4)。構造的な病因としての病変(焦点てんかんの治療において一般的に切除)は、主に海馬硬化症、脳腫瘍、皮質の形成異常、血管形成異常、神経膠瘢痕(脳卒中、外傷性脳障害など)および脳炎症の6つに分けられます4)。てんかんの原因には、年齢による傾向が認められています。
てんかんの原因(年齢別、海外データ)
■小児に多い原因
小児においては、原因不明の場合が半分以上を占めています5)。小児に多い原因は、てんかんになりやすい体質をもつ素因性や脳の発達過程で神経細胞をうまく作られない脳の形成異常などであり、周産期障害、中枢神経系感染症、脳形成異常、染色体異常などです。その他に、感染や自己免疫疾患による脳炎なども多くみられます。
■高齢者に多い原因
高齢者では、脳卒中などの病気や加齢による脳へのダメージが原因となることが多いです1,6)。高齢者てんかんの原因のほとんどは後天的なもので、脳卒中などの脳血管疾患、アルツハイマー病などの脳の神経変性疾患、脳腫瘍が主な原因となることが多いです1,7,8)。中でも最も多い原因は、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などの「脳卒中」です。脳卒中による言語障害や半身麻痺などの症状はよく知られていますが、てんかんも脳卒中が原因となることが多い病気です。また、アルツハイマー病など脳の変性や、神経細胞伝達の疾患もてんかんの原因になることがあります。一方、明らかな病変はなくてもてんかん発作が生じることもあります。その場合、口をクチャクチャ動かしたりする自動症や、意識障害などの症状がよくみられます1)。
- 1)
- 赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.38-39,54-55, 法研, 2022
- 2)
- 日本てんかん学会 編:「てんかん専門医ガイドブック改訂第2版」 P.30-32, 診断と治療社, 2018
- 3)
- 井上有史、池田仁 編:「新てんかんテキスト-てんかんと向き合うための本 改訂第2版」 P.4, 南江堂, 2021
- 4)
- Balestrini S. et al: Epileptic Disord. 23(1), 1-16, 2021
- 5)
- Oka E. et al: Epilepsia. 47(3), 626-630, 2006
- 6)
- Chipaux M. et al: Epilepsia. 57(5), 757-769, 2016
- 7)
- Hauser WA. et al: Epilepsia. 34(3), 453-468, 1993
- 8)
- 辻貞俊 他: 神経治療 29(4), 459-479, 2012
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