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疫学と定義

てんかんの疫学

てんかんは、約100人に1人の割合で発症するといわれている、ありふれた疾患です。
有病者数は、世界で6,500万人1)、日本では100万人2)、欧州では600万人3)、米国では340万人4)といわれています。しかしながら、日本のてんかんの実際の患者数は21万8000人(平成29年厚生労働省「患者調査」)です。この差は、「患者調査」はてんかんが主病名の人の数字のためであり、脳卒中や外傷などが原因の場合はそちらの病名でカウントされることにあります。また、てんかんと気付かずに受診していない人も含めると、やはりてんかんは100人に1人の身近な疾患であるといえます5)

てんかん患者 約1人/100人

発症率(一定期間に発病する率)は、先進国では一般人口10万人あたり年間67.77人と報告されています6)。これを日本にあてはめると、毎年8万6000人が新規にてんかんを発症していると予想されます。
てんかんは、あらゆる年代で発症する疾患ですが、乳幼児と高齢者で多いことが知られています7)。80歳以降は小児よりも発症率は高くなります。高齢者てんかんを65歳以上とすると、日本には約30万人の高齢者てんかん患者が存在すると推定されます8)
けいれん性の発作だけでなく、非けいれん性の発作が起こるものもあり、特に高齢者では非けいれん性の発作が多く、てんかんの診断には注意が必要です9)
てんかんの発症率および有病率は、女性よりも男性で若干高いと報告されています10)
てんかんの予後については、初回非誘発発作患者での発作再発率は、1年後で36~37%、2年後で43~45%、平均再発リスクは51%との報告があります。再発の確率は、時間とともに減少し、再発の約50%が半年以内に起こります10)
てんかんと診断された患者で、薬物治療による発作寛解が5年以内に達成できるのは約70%とされています8)
てんかんそのものによる死亡リスクは低いとされていますが、年齢やけいれんのタイプなどの間で、死亡率に差があるともいわれます10)。てんかん患者の死亡率は、一般人口に比較すると高く、2~3倍といわれています8,10)。死亡の直接原因はいまだ解明されていません7)

てんかんの年齢ごとの発症数、累積発症率、有病率(海外データ)

てんかんの年齢ごとの発症数、累積発症率、有病率(海外データ)

【対象・方法】アメリカのミネソタ州ロチェスターの住民1,430,205例を対象に1935年〜1974年にてんかんの発症状況を調査した。

Haut SR. et al: Lancet Neurol. 5(2), 148-157, 2006

てんかんの定義

「てんかん(epilepsy)」と「てんかん発作(epileptic seizure)」は区別して用いる必要があります。てんかんは慢性疾患の病名であり、反復するてんかん発作を症状とします8)。てんかん発作は通常、「脳の同期した過剰な異常神経活動に基づいて生じる一過性の徴候・症状である」と定義されています8)

WHO(世界保健機関)では、てんかんは以下のように定義されています11)

種々の病因によってもたらされる慢性の脳の疾患であって、大脳ニューロンの過剰な放電に由来する反復性の発作(てんかん発作)を主徴とし、それに変化に富んだ臨床ならびに検査所見の表出が伴う

日本神経学会のてんかん診療ガイドライン2018では、てんかんは以下のように定義されています12)

CQ1-1 てんかんとはなにか

要約

てんかんとは、てんかん性発作を引き起こす持続性素因を特徴とする脳の障害である。すなわち、慢性の脳の病気で、大脳の神経細胞が過剰に興奮するために、脳の発作性の症状が反復性に起こる。発作は突然に起こり、普通とは異なる身体症状や意識、運動および感覚の変化などが生じる。明らかなけいれんがあればてんかんの可能性は高い。

てんかんは、発作を繰り返し起こすことが特徴ですが、国際抗てんかん連盟(ILAE)の実用的臨床定義では、

  1. ①24時間超の間隔で2回以上の非誘発性(又は反射性)発作が生じる。
  2. ②1回の非誘発性(又は反射性)発作が生じ、その後10年間にわたる発作再発率が2回の非誘発性発作後の一般的な再発リスク(60%以上)と同程度である。
  3. ③てんかん症候群と診断されている。

のいずれかの状態と定義される脳の疾患とされ、②のように1回の発作でも診断することがあります13)
※発作が再発する可能性が高い病態として、

  • ・脳卒中発症から1ヵ月以上経過して孤発発作を起こした患者
  • ・孤発発作の発生と同時に症状の器質的又は間接的な成因、及びてんかん様の脳波所見が認められた小児

などが挙げられています。

1)
Moshé SL. et al: Lancet. 385(9971), 884-898, 2015
2)
大槻泰介: てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究, 2013 https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/22749 (2022年8月23日アクセス)
3)
WHO: Fostering Epilepsy Care in Europe. 11-12, 2010
4)
Zack MM, Kobau R.: MMWR. 66, 821-825, 2017
5)
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.16-17, 法研, 2022
6)
Kirsten MF et al: Neurology. 88, 296-303, 2017
7)
Haut SR. et al: Lancet Neurol. 5(2), 148-157, 2006
8)
日本てんかん学会 編: 「てんかん専門医ガイドブック 改訂第2版」 P.2-4, 診断と治療社, 2018
9)
Tanaka A. et al: Seizure. 22(9), 772-775, 2013
10)
Beghi E. et al: Neuroepidemiology. 54(2), 185-191, 2020
11)
Gastaut H.: 「Dictionary of Epilepsy PartⅠ: Definitions」 P.22, WHO, 1973
12)
日本神経学会「てんかん診療ガイドライン」作成委員会 編: 「てんかん診療ガイドライン 2018」P.2, 医学書院, 2018
13)
Fisher RS. et al: Epilepsia. 55(4), 475-482, 2014

JP-N-DA-EPI-2200144