発作別の症状
全般発作と焦点発作の発症率
全般発作は小児に多く、焦点発作(旧:部分発作)は高齢者で多くみられます。高齢者ではてんかんの発症率は増加しますが、その原因には、加齢による脳の変化が関連しているといわれています。
また、小児、成人にかかわらず、焦点発作(57%)は全般発作(40%)よりも高頻度にみられます。
焦点発作のうち、最も頻度の高い発作型は、焦点意識減損発作(旧:複雑部分発作)です。全般発作の中で最も多い発作型は、全般性強直間代発作です1,2)。
焦点発作の症状
焦点(起始)発作は、大脳の一部分が異常な電気興奮を起こすことで始まります。この発作は、意識(awareness)、すなわち、「発作中に自己と周囲の状況を理解できていること」が保たれているかどうかにより分類されます。発作中に意識が保たれている場合は「焦点意識保持発作(旧:単純部分発作)」、意識や記憶が障害されているものは「焦点意識減損発作(旧:複雑部分発作)」に分けられます。
また、焦点で始まった興奮がその後、両側大脳半球に進展して全身のけいれん性運動がみられる発作(強直間代発作)を生じる場合には、「焦点起始両側強直間代発作(旧:二次性全般化発作)」に分類されます3,4)。
発作の最初の顕著な症状が運動性であれば「焦点運動起始発作」、非運動性であれば「焦点非運動性起始発作」とする分類方法もあります。
■焦点意識保持発作(旧:単純部分発作)の症状
発作中に意識が保たれており、倒れることもないので、本人はあとで発作中のことを思い出すことができ、発作直前に前触れを感じることもあります。小児の患者で「怖い」と言って両親に抱きついたあとに発作の症状があらわれることがあるというケースもありますが、これは発作の前兆(アウラ)を感じ取っている可能性があります5)。
焦点意識保持発作のうち、焦点意識保持運動起始発作は他人からみて発作が起こっている様子が観察できますが、それ以外の発作(焦点意識保持非運動起始発作)の症状はほとんど自覚症状のみなので、本人に確認しないとてんかん発作であるかどうか分かりません6)。
発作の症状、特に始まりの症状は、同じ患者さんでは原則としていつも同じです。これは発作を起こす脳の場所がかなり限られた場所にあるためです。ただし、脳の興奮の広がり方は発作のたびに微妙に変化するため、発作の持続時間や始まりの症状に続く症状には多少違いがあります6)。
■焦点意識減損発作(旧:複雑部分発作)の症状
発作中に意識がはっきりしなくなり、行動がピタッと止まり、無表情になり反応がなくなります。ボーッとして止まっているだけの場合や、手や口をもぞもぞと動かしたり(自動症)、体を激しく動かしたりすることもあります。その後、徐々に意識が回復しますが、この状態のときにはうろうろ歩き回ることもあります(発作後もうろう状態)5,6)。
この発作では、やけど、転落、交通事故、溺れるなどさまざまな危険があるため、入浴中や炊事中、自転車・自動車の運転などは注意する必要があります6)。
■焦点起始両側強直間代発作(旧:二次性全般化発作)の症状
大脳の片側の一部で起こった電気的興奮が、大脳の両側に広がります。最初は意識があっても、興奮部分が広がると意識を失い、手足をこわばらせて体がガクガクふるえるけいれんになります。全般発作の強直間代発作と同じ症状なので、判別は難しいこともあります5)。
強直間代発作と違う点は、けいれんに左右の違い(例:4の字徴候)がみられたり、発作後に左右どちらかの半身まひが一時的にみられたりする点です。また、前兆があれば焦点起始両側強直間代発作とわかるため、発作終了後に必ず前兆の有無の確認をします6)。
発作後のまひの見方ですが、意識が回復していれば、手のひらを上に向け、両腕を水平になるように上げ、目を閉じてもらいます。まひがあれば片方の腕が下がります。意識が回復していない場合は、仰向けの状態で両方の膝を立てます。まひのある方は外側に崩れていきます。片方の膝だけが崩れた場合に発作後麻痺があると判定します6)。
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●動画:強直間代発作 全般強直間代発作/焦点起始両側強直間代発作全般発作の症状
全般発作は、大脳の両側が一気に興奮状態になるもので、最初から意識を失う特徴があります。主な症状が運動性か非運動性かで「全般運動発作」「全般非運動発作(欠神発作)」に分けられます4,5)。
■全般非運動発作(欠神発作)の症状
大脳の両側の電気的興奮で突然意識障害(欠神発作)があらわれます。その場で動作が止まり、数秒~十数秒で突然意識が回復します。発作前の記憶は保たれているため、発作終了後は元の動作をすぐに再開できます。本人は少し意識が途切れた感じがする場合もありますが、まったく自覚していないこともあります。発作時の危険はあまりありませんが、横断中に起こると立ち止まってしまうため危険です5,6)。
定型欠神発作:10秒足らずの間、意識がなくなります。急に話が止まったり、ボーッとしたりします5)。
非定型欠神発作:定型欠神発作と同じ症状ですが、発作の始まりと終わりが分かりにくいという特徴があります。レノックス・ガストー症候群によくみられます。意識の消失、回復ともゆるやかですが、時に長く続くため、精神症状との区別がつきにくいことがあります5,6)。
- ・突然表情がなくなり、
ぼんやりした目つきになる - ・まぶたや口角がピクピクする
- ・軽い舌打ちや唇が動く
(口部自動症) - ・持っているものを落とす
(転倒はしない) - ・体がゆっくり傾く
- ・歩いていれば
立ち止まる - ・会話中であれば
話が中断する - ・作業中であれば
動作が停止する
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.32-33, 法研, 2022
川崎淳 著: 「てんかん発作 こうすればだいじょうぶ 発作と介助 改訂新版」 P.32-39, クリエイツかもがわ, 2021 より作成
■ミオクロニー発作の症状
全身または顔面や四肢の一部が一瞬ピクッと収縮します。収縮が大きい場合は転倒したり、持っている物を投げてしまったりすることもあります3,5)。発作は1回だけのこともあれば、数回連続することもあります。必ず左右同時に起こりますが、強さに左右差があることと、軽い発作のため箸や鉛筆などを持っている利き手のピクつきにしか気づかない場合があり、焦点意識保持発作と間違えられることがあります。意識は通常は保たれていますが、一瞬意識を失うこともあります6)。
食事中に
手に持っているものを飛ばす
体がピクッとなり
手に持っていたものを落とす
- ・寝起きに起こりやすい
- ・1回だけのこともあれば連続して起こることもある
- ・必ず左右同時に起こる
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.28-29, 法研, 2022
川崎淳 著: 「てんかん発作 こうすればだいじょうぶ 発作と介助 改訂新版」 P.20, クリエイツかもがわ, 2021 より作成
■間代発作の症状
子どもで多くみられる発作です6)。ひざを折り曲げて、手足をガクガクけいれんさせます。規則的・周期的に反復して動く発作で、動きと動きの間に力が抜けている時間があります3,5)。持続時間が長いことが多く、数分~十数分、時には1時間以上続きますが、その割には発作後の疲労が少ないことが多い発作です6)。
手足をガクガクけいれんさせる
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.28-29, 法研, 2022
川崎淳 著: 「てんかん発作 こうすればだいじょうぶ 発作と介助 改訂新版」 P.24, クリエイツかもがわ, 2021 より作成
■強直発作の症状
レノックス・ガストー症候群を代表とする、「てんかん性脳症」で特徴的にみられる発作です。この発作のある人はあまり多くはありませんが、他の発作に比べて治りにくく、転倒によるケガの危険が大きいので注意が必要です6)。
強直とは体に持続的な力が入ることを意味します。意識を失って歯をくいしばり、手足をピンと伸ばしたまま数秒~数十秒こわばらせるという症状を呈します。立っている場合は、体に力が入ってパタンと倒れることもあります3,5)。強直が終了した後、口をもぐもぐさせる動きを伴うもうろう状態が続きます。また、連続してみられることが多いのが特徴です6)。
手足をピンと伸ばしたままこわばらせる
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.28-29, 法研, 2022
川崎淳 著: 「てんかん発作 こうすればだいじょうぶ 発作と介助 改訂新版」 P.25-26, クリエイツかもがわ, 2021 より作成
■強直間代発作の症状
突然意識を失った後、眼を見開き手足に力を入れて突っ張り(強直けいれん)、その後全身をビクンビクンとけいれんさせます(間代けいれん)。けいれんがおさまると、眠ったような状態になります(発作後もうろう状態)3,5)。けいれんの持続時間は1分程度のことが多いのですが、強直けいれんと間代けいれんの割合はさまざまです6)。
発作後に頭痛、筋肉痛、吐き気、嘔吐がみられることがあります。多くの場合は1日程度で自然に回復しますが、まれに1週間程度続くこともあります6)。
発作時には、転倒によるケガ、やけど、溺れるなどの危険があります。また自動車の運転は極めて危険です6)。
■脱力発作の症状
この発作はレノックス・ガストー症候群などでみられます6)。筋緊張が急激に低下する発作で、前兆なく意識を失い、全身の力が急に抜けて転倒します。下肢の脱力が起こると、膝から垂直に転倒したり、尻もちをついたりします。回復は早い一方、しばしばケガの原因となります。発作時間は非常に短いので、十分な観察は困難です3,5,6)。
回復は早いのですが、転倒によるケガの危険が大きいため、多くの人で頭部を保護する分厚い保護帽着用が必要になります6)。
突然力が抜ける
ときには尻もちをつく
井上有史、池田仁 編: 「新てんかんテキスト-てんかんと向き合うための本 改訂第2版」P.16, 南江堂, 2021
川崎淳 著: 「てんかん発作 こうすればだいじょうぶ 発作と介助 改訂新版」 P.27, クリエイツかもがわ, 2021 より作成
てんかん重積状態
てんかん重積状態とは、発作が持続して止まらない、あるいは1回の発作は短くても意識が回復する前に次の発作が繰り返して出現し、この状態が何の処置も行わないと長時間持続する特別な状態です。通常発作が5分以上持続して止まりそうにないときには、てんかん重積状態の可能性があります3,6)。30分以上続くけいれん性てんかん重積状態では、脳細胞が障害を受けて、発作後に元の状態に戻らなくなり、運動麻痺が残ったり、ときには生命に危険が及ぶこともあります。そのため、緊急処置によって発作を早急に止める必要があります3)。
てんかん診療ガイドライン2018では、てんかん重積状態の定義は以下のように要約されています7)。
CQ8-1 てんかん重積状態の定義はなにか
てんかん重積状態(status epilepticus : SE)とは、「発作がある程度の長さ以上に続くか、または、短い発作でも反復し、その間の意識の回復がないもの」と定義されてきた(国際抗てんかん連盟:ILAE、1981)。持続時間について、けいれん発作が5分以上持続すれば治療を開始すべきで、30分以上持続すると後遺障害の危険性がある(ILAE、2015)。
てんかん重積状態には、意識障害が主体の「非けいれん性てんかん重積状態」と、けいれん発作が主体の「けいれん性てんかん重積状態」があります3)。
■非けいれん性てんかん重積状態6)
定型欠神発作、非定型欠神発作、焦点意識減損発作が長時間続くものです。意識が半分あるような、ないような状態が長時間続きます。この状態には波があり、ほとんど反応がない時期もあれば、かなり反応はあるが不機嫌だったり、怠けているようにみえたりするだけの時期もあり、これらを繰り返します。
心因性非てんかん発作との区別はかなり困難なため、発作時の脳波の記録が必要です。心因性非てんかん発作であれば、原則、脳波は正常です。
日常的に非けいれん性てんかん重積状態を繰り返すことが分かっている場合は、緊急受診の必要はありませんが、初めて長時間の意識消失が続いた場合は、脳炎や脳血管障害の可能性もあるため受診が必要です。
■けいれん性てんかん重積状態6)
全身がけいれんする発作が繰り返しみられるか長く続くものが多いといわれます。けいれんが長時間持続すると、脳神経細胞の傷害により知能低下などの後遺症が残る危険や、肺炎、横紋筋融解症などの合併症による生命の危険もあります。意識が回復せずに、全身けいれんを3回以上繰り返すか、10分以上けいれんが続く場合は救急車を呼ぶ必要があります。
- 1)
- Hauser WA. et al: Epilepsia. 34(3), 453-468, 1993
- 2)
- Beghi E: Neuroepidemiology. 54(2), 185-191, 2020
- 3)
- 井上有史、池田仁 編 : 「新てんかんテキスト-てんかんと向き合うための本 改訂第2版」P.13-18, 南江堂, 2021
- 4)
- 日本てんかん学会編 : 「てんかん専門医ガイドブック 改訂第2版」 P.5-12, 診断と治療社, 2018
- 5)
- 赤松直樹 監修 : 「ウルトラ図解 てんかん」 P.26-33, 法研, 2022
- 6)
- 川崎淳 著 : 「てんかん発作 こうすればだいじょうぶ 発作と介助 改訂新版」 , P.19-27, 32-39, 44, クリエイツかもがわ, 2021
- 7)
- 日本神経学会「てんかん診療ガイドライン」作成委員会 編 : 「てんかん診療ガイドライン2018」P.76, 医学書院, 2018.
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