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鑑別診断

てんかんと鑑別すべき疾患

てんかんの鑑別診断

てんかんと鑑別すべき疾患は多岐にわたるため、誤診されることもあり、てんかんと診断後に、てんかんセンターを受診した患者さんの20~30%がてんかんではなかったとの報告もあります1)
てんかんと鑑別すべき発作には、誘因のある状況においてのみ誘発される発作(熱性けいれん、ストレス、ホルモン変動、薬物、アルコール、断眠などと関連する状況関連性発作)、急性の内科的あるいは中枢神経系の病態と時間的に密接に関連して起こる発作(脳血管障害、中枢神経系感染症、頭部外傷、代謝性、中毒、薬物離脱、頭蓋内手術後などが原因の急性症候性発作)、および非てんかん性の病態(失神、心因性非てんかん発作、一過性脳虚血発作、一過性全健忘、過呼吸発作、睡眠関連障害、片頭痛、不随意運動や発作性運動障害など)があります2)

てんかんと鑑別が必要な症状
* 例えば、発作性ジスキネジア、発作性ジストニア、片側性顔面けいれんなど
**例えば、夜驚症、悪夢、睡眠時遊行症、睡眠時無呼吸症、REM睡眠行動障害など
Benbadis S.: Epilepsy Behav. 15(1), 15-21, 2009
French JA. et al: N Engl J Med. 359(2), 166-176, 2008より作成

ガイドラインにおける鑑別されるべき疾患

てんかん診療ガイドライン2018では、てんかんと紛らわしいものとして、これらの疾患を挙げています。突然発症の意識消失で救急外来を訪れる患者では、神経調節性失神/心因性非てんかん発作が40%と多く、てんかんは29%、次いで心原性が8%とされています。頭部外傷受傷後1週以内に急性けいれんを起こした患者では、将来てんかんを発症する全体の危険率は約25%とされます。アルコール離脱によりけいれん発作を起こすこともあります3)

てんかん診療ガイドライン2018
CQ1-4成人においててんかんと鑑別されるべき疾患はなにか

要約
てんかんと紛らわしいものには、次のものがある。

  • ①失神(神経調節症、心原性など)
  • ⑦急性代謝障害(低血糖、テタニーなど)
  • ②心因性非てんかん発作
  • ⑧急性腎不全
  • ③過呼吸やパニック障害
  • ⑨頭部外傷(1週間以内)
  • ④脳卒中(脳梗塞、脳出血)、一過性脳虚血発作
  • ⑩不随意運動(チック、振戦、ミオクローヌス、発作性ジスキネジアなど)
  • ⑤睡眠時随伴症(レム睡眠行動異常、ノンレムパラソムニア)
  • ⑪発作性失調症
  • ⑥急性中毒(薬物、アルコール)、薬物離脱、アルコール離脱

日本神経学会「てんかん診療ガイドライン」作成委員会 編: 「てんかん診療ガイドライン 2018」 P.10, 医学書院, 2018

長時間ビデオ脳波モニタリングによるてんかんの診断

発作がてんかん性か、非てんかん性かを見分けるのは、症状だけではベテランの医師でも見分けられないことが少なくありません。加えて、てんかんをもつ人が非てんかん性の発作を起こすこともあります。長時間ビデオ脳波モニタリング検査など、より専門的な検査と詳細な検討が必要です4)

東北大学てんかん科受診者での実施例
中里信和 監修:「「てんかん」のことがよくわかる本」 P.71, 講談社, 2015

てんかん発作を疑われた疾患の分類

てんかん発作を疑われ、てんかんと誤診された非てんかん性発作の内訳は、失神がほぼ半数であり、続いて心因性非てんかん発作が約30%を占めています。その他、自閉症、精神遅滞、学習障害、非てんかん性発作性運動障害、片頭痛等が報告されています5)

てんかん発作を疑われた疾患の分類
Xu Y. et al : Seizure. 41, 167-174, 2016より作成

てんかんと鑑別すべき疾患:年齢別

てんかんは年齢にも関係した特徴がみられます。新生児期のけいれんの多くは出生前、周産期障害に起因する症候性のものです。幼児期になると次第に素因(遺伝性)のけいれんが多くなりますが、非てんかん性のけいれんである熱性けいれん、呼吸停止発作が多くみられます。学童期はてんかんが好発する時期ですが、このころから擬似発作など、神経症に関連する非てんかん性の発作が始まります6)
小児でてんかん発作と紛らわしい疾患を発作徴候からみると、①全般強直発作、強直間代発作を示すのは熱性けいれん、良性乳児けいれん、軽症胃腸炎関連けいれん、心因性発作の一部、急性代謝障害、チアノーゼ型憤怒けいれんの長引いたもの、②意識消失±脱力発作を示すのは憤怒けいれん、神経調節性失神、心因性発作の一部、急性代謝障害の一部、熱性けいれんの一部、③ぴくぴくさせるのは睡眠時ミオクローヌス、心因性発作の一部、④恐怖や徘徊などの奇妙な動きを示すのは夜驚症、夢遊病、心因性発作です
成人期以降は素因(遺伝性)の関与するてんかんの発病は減少し、次第に脳腫瘍、脳血管障害などによる脳の損傷が原因として増えてきます6)
突然発症の意識消失で救急外来を訪れる成人患者では、神経調節性失神/心因性非てんかん発作、てんかん、次いで心原性失神の順に多いとされています。失神の特徴は、発作後に意識変化や疲労、倦怠感を伴うことがない点です。心因性発作をてんかん発作と鑑別するには、発作時にビデオ脳波同時記録を取ることが最も確実な方法です7)

年齢からみた鑑別すべき疾患

新生児期 周生期低酸素症、分娩時外傷、低カルシウム血症、中枢神経感染症、中枢神経発生異常、低血糖、妊娠中毒、脳内出血、先天性代謝障害
乳幼児期 熱性けいれん、呼吸停止発作(泣き寝入りひきつけ)、睡眠時ミオクローヌス、憤怒けいれん
学童期 失神、睡眠時遊行症、ナルコレプシー、片頭痛、夜驚症、起立性調節障害、チック、解離性障害、過呼吸発作
思春期 ナルコレプシー、解離性障害、片頭痛
成人期 脳腫瘍、脳動静脈奇形、インスリノーマ、全身性エリテマトーデス(SLE)
老年期 動脈硬化性脳血管障害、脳腫瘍、睡眠時ミオクローヌス
熱性けいれん:
3ヵ月から5歳頃までの小児が38.5℃以上の発熱時に起こすけいれん。てんかんは発熱がないときにも反復して発作が出現するという点で異なる。
睡眠時ミオクローヌス:
睡眠時に周期的に反復して出現する四肢筋群の不随意運動で、小児でみられるように生理的なものもあるが、睡眠障害に至ることもある。老年期に多い。
ナルコレプシー:
睡眠発作、筋緊張の低下(脱力)、睡眠と覚醒の移行期に動けない(sleep-paralysis)、睡眠時の幻聴ないし幻視などの症状を示す。
チック:
突発的、急速、反復性、非律動的、常同的な運動あるいは発声で、神経症の一種。
インスリノーマ:
ランゲルハンス島細胞から成る歴病で、自発性の低血糖状態を引き起こし、結果として疲労、脱力、不穏、四肢振戦などを起こす。
全身性エリテマトーデス(SLE):
膠原病の一種で、皮膚症状(発疹、紅斑性狼そう)だけでなく、病変は脳にも及び精神神経症状が出現する。神経症状として全身けいれんが症例の一部にみられる。

兼子直:「てんかん教室 改訂」P.44,新興医学出版社,2003
兼子直:「てんかん教室 改訂第3版」P.29-38, 新興医学出版社,2012より作成

てんかんと鑑別すべき疾患:症状別

てんかん以外の原因で、てんかん発作に似た症状が起きることは頻繁にあります4)
てんかん発作と間違われやすい症状としては、主に一時的に意識を失う、体の一部あるいは全体が勝手に動く、逆に動かなくなるものなど、てんかん発作とよく似た症状がみられるものがあります8)
例えば、失神はてんかん発作と間違われやすい状態のひとつです。ナルコレプシーは睡眠発作が意識消失と勘違いされ、てんかん発作と間違われることがあります。心因性非てんかん性発作では、反応がなくなったり、全身を激しくバタバタと動かしたり、逆に意識があるのに動けないなど症状はさまざまで、てんかん発作に状態が似ています8)

症状 想定されるてんかん発作 鑑別診断
けいれん 症状 けいれん全身のけいれん 想定されるてんかん発作全般性強直間代発作、焦点意識減損発作、
強直発作など
鑑別診断失神、PNES、
ミオクローヌスなど
不随意運動
症状 けいれん体の一部分のけいれん 想定されるてんかん発作焦点運動起始発作、ミオクロニー発作 鑑別診断過換気症候群、PNESなど
症状発作性意識障害 想定されるてんかん発作焦点意識減損発作、
てんかん発作後のもうろう状態など
鑑別診断種々の失神、PNES、
ナルコレプシー、
過換気症候群、パニック障害、
解離性遁走など
症状発作性行動異常 想定されるてんかん発作焦点意識減損発作、
てんかん発作後のもうろう状態など
鑑別診断PNES、睡眠異常症、せん妄、
薬剤性行動異常など
症状発作性認知・記憶障害 想定されるてんかん発作失語発作など高次脳機能障害を呈する
焦点意識保持発作、発作性健忘など
鑑別診断PNES、一過性全健忘、
一過性脳虚血発作など
発作性自覚症状 症状 発作性自覚症状感覚症状 想定されるてんかん発作焦点意識保持発作(感覚野) 鑑別診断非てんかん性の痛み、
めまい、動揺感など
症状 発作性自覚症状四肢の感覚異常 想定されるてんかん発作焦点意識保持発作(一次感覚野) 鑑別診断PNESなど
症状 発作性自覚症状頭痛 想定されるてんかん発作焦点意識保持発作、てんかん発作後頭痛 鑑別診断片頭痛
症状 発作性自覚症状耳鳴り 想定されるてんかん発作焦点意識保持発作(側頭葉) 鑑別診断耳鼻科的疾患
症状 発作性自覚症状めまい 想定されるてんかん発作焦点意識保持発作(側頭葉) 鑑別診断耳鼻科的疾患
症状 発作性自覚症状発作性自律神経症状 想定されるてんかん発作焦点意識保持発作(側頭葉) 鑑別診断耳鼻科的疾患
発作性精神症状 症状 発作性精神症状幻覚 想定されるてんかん発作焦点意識保持発作(嗅覚・味覚発作(側頭葉)、
視覚発作(後頭葉)、聴覚発作(側頭葉)など)
鑑別診断精神疾患(統合失調症、
神経症、パニック障害など)、
PNES
症状 発作性精神症状不安・焦燥・恐怖 想定されるてんかん発作焦点意識保持発作(発作時夢幻状態、
帯状回発作など)
鑑別診断精神疾患(統合失調症、
神経症、パニック障害など)、
PNES

身体疾患などに伴う急性疾患発作は除きます。
PNES:心因性非てんかん発作(Psychogenic Non-Epileptic Seizure)
小出泰道:「“てんかんが苦手”な医師のための問診・治療ガイドブック」 P.98, 医薬ジャーナル社, 2014 より改変

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てんかん診療のネットワーク

てんかん診療のネットワーク

てんかんは多彩な病像をもつ疾患であり、人生の長い時間対峙しなければならないため、疾患治療と同時に諸問題(精神症状・就学就労を含めた社会適応・妊娠出産・スティグマとの戦いなど)に対応すべく、精神・神経疾患の総合的問題解決対応が求められています。諸問題は個別化・多様化していることから、多職種(各診療科医師、看護師、精神保健福祉士、医療社会福祉士など)が連携して解決する必要があります。
2015年度よりてんかん診療拠点病院整備事業が進行しています。てんかん拠点病院は都道府県により指定され、その創設や運用には行政との密な連携が求められています。

てんかん診療のネットワーク
日本てんかん学会 編:「てんかん専門医ガイドブック 改訂第2版」 P. 207, 診断と治療社, 2020

てんかん診療拠点機関施設要件は、①てんかん専門医(または同等の医師:神経系専門医)がいること、②脳波およびMRIや発作時ビデオ脳波モニタリングによる診療が行えること、③てんかんの外科治療や、複数の診療科による集学的治療を行えること、と規定されています2)

国内のてんかん専門医数の推移と内訳

国内のてんかん専門医数は2022年現在788名であり、小児科が最も多く、半数以上を占めています9)。てんかん専門医は徐々に増加していますが、てんかん発症率が100人に1人という多くの医師が遭遇する疾患でありながら、依然として少ないのが現状です。

国内のてんかん専門医数の推移と内訳
日本てんかん学会ホームページ 日本てんかん学会専門医一覧(2022年8月5日閲覧)より作成
https://jes-jp.org/senmon/senmon-list.html
1)
Benbadis S.: Epilepsy Behav. 15(1), 15-21, 2009
2)
日本てんかん学会 編: 「てんかん専門医ガイドブック 改訂第2版」 P.44-45, 206-207, 診断と治療社, 2018
3)
日本神経学会「てんかん診療ガイドライン」作成委員会 編: 「てんかん診療ガイドライン 2018」 P.10, 医学書院, 2018
4)
中里信和 監修: 「「てんかん」のことがよくわかる本」 P.70-71, 講談社, 2015
5)
Xu Y. et al: Seizure. 41, 167-174, 2016
6)
兼子直: 「てんかん教室 改訂」 P.44, 新興医学出版社, 2003
7)
兼子直: 「てんかん教室 改訂第3版」 P.29-38, 新興医学出版社, 2012
8)
井上有史、池田仁 編: 「新てんかんテキスト-てんかんと向き合うための本 改訂第2版」P.51-53, 南江堂, 2021
9)
日本てんかん学会, 日本てんかん学系専門医一覧: https://jes-jp.org/senmon/senmon-list.html (2022年8月5日アクセス)

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