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診断・検査

診断の手順

てんかんは図のような手順で、確定診断されます。検査には脳波検査が推奨されており、必要に応じてMRIなどの画像検査、ビデオ脳波同時記録(長時間ビデオ脳波モニタリング検査)が実施されます1)
診断の流れとして、まず発作の様子や成育歴、既往歴、家族歴などを聴取したり、小児の場合は心身の発達に問題はないか、手足などに麻痺はないかなどを診察します。 続いて、脳波検査により大脳の活動状態を調べます。てんかんがあれば発作時以外でも特徴的な脳波がみられるため、最も重要な検査に位置付けられています。

診断の手順
日本神経学会「てんかん診療ガイドライン」作成委員会 編:「てんかん診療ガイドライン 2018」 P.15, 医学書院, 2018

画像検査では、CTやMRIで脳の構造異常がないかを調べます。MRIではてんかんの原因となる部位を特定したり、てんかん以外が原因で発作症状が起こっている可能性も確認できます。
これらのみで診断が困難な場合は、脳機能画像検査(SPECT、PET)、長時間ビデオ脳波モニタリング検査、脳磁図(MEG)を行うこともあります。

問診のポイント

問診は、てんかんを正確に診断し、治療法を決めるうえで重要です。発症年齢、発作の持続時間、意識障害の有無、発作症状(発作の前・中・後)、発作の起こりやすい時間帯や発作の誘因などにより、てんかんによる発作か、他の疾患による発作かなどを確認します2,3)

具体的な問診の内容として、まずは既往歴や頭などに大きなケガをしたことはないかを聴取します。周産期に異常はなかったか、子どもの頃の発育や発達の様子なども確認します。さらに、どんな環境で育ったか(家族構成など)、学歴、職歴、生活歴、服薬している薬、飲酒、家族歴なども確認します3)

次に、発作について聴取します。これにより、脳のどの部位が電気的興奮を起こしているかを推測でき、正しい診断につながるため非常に重要です。いつ、どのように発作があったかを詳細に伝えられるチェックリストを活用するなども考慮し、丁寧に聴取します。けいれんなどの大きな発作以外にも、「手がピクッとした」「ボーッとしている」などの情報も重要なヒントになります3)。意識のない発作の場合はご家族や周囲の方からの情報も重要です。

問診のための発作チェックリスト(例)

問診のための発作チェックリスト(例)
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.63, 法研, 2022

また、発作時の状況を動画撮影してもらうことも、正確な診断につながります。ご家族や同居人など周りの方に録画を頼める場合には、趣旨を説明の上、撮影をお願いしてもらうことも重要です2,3)。さらに、発作記録を毎日紙に記録してもらうことや、スマホの発作記録のアプリを活用してもらうことも、発作を知るための有効な方法です3)

てんかんの検査

てんかんの代表的な検査には、脳波検査(EEG)、長時間ビデオ脳波モニタリング検査、神経画像検査、神経心理検査、血液検査・尿検査などがあります1,3)

脳波検査(EEG)

脳波で発作に関係した異常波が出ているかどうかを調べます。また、脳内のどこでてんかんを引き起こす電気的興奮が発生しているかもわかります。

長時間ビデオ脳波モニタリング検査

脳波を調べるとともに発作の状態を記録して照らし合わせて検証します。また、てんかんの原因となっている場所をつきとめます。

神経画像検査

てんかんの原因となる脳の疾患や傷害があるかどうかを調べます。

神経心理検査

高次脳機能障害(言語・思考・認知・記憶・行為・注意など)を評価します。

血液検査・尿検査

てんかんに似た症状をおこす病気を区別するのに役立ちます。抗てんかん薬の長期服用により肝機能が低下していないかを定期的に調べます。

てんかんの検査のイラスト

脳波検査(EEG)

てんかんの診断で最も有用な検査です。発作の症状がてんかんによるものかどうかを判断でき、てんかんを引き起こす電気的興奮が脳内のどこで発生しているのかも分かるため、焦点発作か全般発作かの分類を確認する手段にもなる検査です。入院は不要で、安静な状態で約30分測定します。電極を頭の21箇所に装着し、睡眠(睡眠導入剤などで眠る)、過呼吸(息を吸ったり吐いたりする)、光刺激(ストロボの光をあてる)などの負荷をかけて、脳波を測定します1,3,4)

脳波検査(EEG)のイラスト
日本神経学会「てんかん診療ガイドライン」作成委員会 編: 「てんかん診療ガイドライン 2018」 P.17, 19, 医学書院, 2018
高木康、山田俊幸 編: 「標準臨床検査医学 第4版」 P.370-374, 医学書院, 2013
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.68-73, 法研, 2022 より作成

てんかん患者でみられる突発性異常波には、以下のような種類があります3,4)

  • ・棘波:とげのように尖った波型。持続時間20~80msec。皮質ニューロンの過同期性放電により出現。
  • ・鋭波:尖っているが幅が広め。持続時間80~200msec。皮質ニューロンの過同期性放電により出現。
  • ・棘-徐波複合:棘波のあとにゆるやかな徐波が出る。
  • ・3Hz-棘-徐波複合:欠神発作でみられ、全般性、左右周期性に出現。
  • ・多棘-徐波複合:3~4相性の棘波あるいは棘-徐波複合が左右同期して出現。ミオクローヌス発作でみられる。

なお、14Hz and 6Hz陽性棘波は軽睡眠の後頭部から後側頭部にかけて出現し、青少年に出現しやすく、頭痛、自立神経障害、頭部外傷などに伴いますが、正常な脳波とされます3,4)
てんかん患者さんに脳波検査を行うと、発作ではないとき(発作間欠期)の脳波にも鋭波や棘波などのてんかん性放電を確認できることがありますが、毎回必ず出るわけではなく、約半数といわれています。検査回数を重ねることでてんかん性放電を確認できる可能性が高まります3)

長時間ビデオ脳波モニタリング検査

てんかんの診断の確定、発作型の診断に最も重要な検査です。長時間にわたって、ときには数日にわたり、連続してビデオと脳波の同時記録を行う検査で、てんかん発作の診断や非てんかん性の症状との鑑別にも有用です。
通常実施される短時間の脳波検査ではてんかん脳波を捉えられなかった場合や、脳の発作起始部を特定できない場合に行われます。てんかん発作と非てんかん発作の区別、発作頻度の評価、治療効果判定に有用であり、それまで気づかれなかった発作型の存在が明らかになることや、発作型の診断が修正されることもあります3,5)
通常、専用の個室で長時間~数日にわたって連続してビデオと脳波の同時記録を行います。てんかんモニタリングユニットというビデオ脳波計、ビデオカメラ、赤外線カメラが備わったベッドに、脳波データを保存するサーバーや解析するためのコンピューターなどが一体となった装置で行います。頭部と肩、左胸に電極をつけ、てんかん発作が起こるのを待ち、発作時の脳波を確認したり、逆に発作の波形が出ているときの発作の様子を確認したりします3,5)

長時間ビデオ脳波モニタリング検査のイラスト
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.75 法研, 2022

神経画像検査

てんかんの画像検査には、さまざまな種類があります。CT、MRIでは脳の形態的な異常、PETでは脳のブドウ糖代謝など脳の機能的な異常、SPECTでは脳血流や神経受容体濃度、MEGでは脳溝などの脳表面に対して垂直な大脳皮質の活動を調べます6)

【CT】

X線を利用して脳内を画像化するため、大きな病変や石灰化病変が検出できます。解像度の点でMRI検査に劣るものの、短時間で施行できるため、安静を保ちにくい患者や閉所恐怖症患者のスクリーニング検査、ペースメーカー装着患者などMRI検査禁忌例での評価に有用です5)

【MRI】

磁気を利用して脳内を画像化するため、CTよりもさらに小さな病変(海馬硬化や血管腫、皮質異形成など)が検出可能であり、てんかん症候群の診断や治療方針決定の補助となります。特に、外科治療の適応判断には病変の有無や分類が大きく影響します。てんかんでは、冠状断像(頭を前と後ろに分ける縦切りの断面)と、軸位断像(横切りの断面)を用いて診断されることが多いです。この画像から、大脳の先天的な奇形、海馬硬化症、大脳の損傷や萎縮、脳腫瘍や血管奇形などの病変の有無を確認します。
MRI検査は15~45分かかるため、緊急時にはCT検査をします3)

【PET】

脳のブドウ糖代謝など脳の機能的な異常を調べることで、てんかん焦点と関連する代謝異常の検出に優れている検査です。手術適応の可否や頭蓋内脳波を考慮する際に重要です。一般に臨床で用いられるPETはグルコース代謝を反映するFDGを用いたPETで、発作間欠期の検査を主眼に用いられます。発作間欠期には、てんかん焦点や関連する領域のグルコースの低代謝域が検出され、側頭葉てんかんでは70~90%、側頭葉外てんかんでも50%の検出率とされます。
MRI所見に異常を欠く例や、発作症状、脳波、MRIの所見間に不一致を生じた場合が最も良い適応とされます5)

【SPECT(単一光子放射断層撮影法)】

単一光子放射断層撮影法。放射性同位元素を用いて脳局所の血流を測定し、発作による脳血流変化をとらえられます。SPECT はPETと異なり、発作時の脳血流変化をとらえられることが最大の利点です。発作時のSPECTを撮像する際には、どのような発作でどのタイミングで核種を静注するかが重要なため、脳波を記録しながら行うことが重要です。
脳血流SPECTの灌流異常の検出率は発作間欠期の43~44%に対し、発作時が97~100%、発作後が75~77%と高い感度を示しますが、てんかん焦点部位との特異度については発作発射の伝播の程度に影響されます5)

【MEG(脳磁図)】

大脳錐体細胞の活動に伴って発生した磁気を記録し、脳波ではとらえにくい、脳溝などの脳表面に対して垂直な大脳皮質の活動を鋭敏に検出できます。MEGは頭皮を出入りする磁力線の変化を、磁気遮蔽室で脳磁計により記録する検査です。磁力線の通りやすさは脳・髄液・頭蓋骨でほぼ同様であるため、頭皮上の磁力線分布をもとに発生源の立体的推定が容易となります。個々のてんかん性異常波(スパイク)について発生源を推定し、複数のスパイクの発生源が脳のどの部位に集まるかを検討します。国内では、限られた施設でのみ臨床検査が実施されています6)
脳波検査は神経細胞周囲に生じた電流が脳脊髄液や頭蓋骨を伝わり、頭皮上に生じる電圧の時間的変化を波形として記録するもので、スパイクの大まかな部位は分かりますが、電気の伝わりやすさは脳・髄液・頭蓋骨で異なるのでスパイクの発生源を立体的かつ正確に求めることは困難です。MEGでは、脳波では見えないスパイクを明瞭に見ることができるため、診断や治療方針の決定・修正に役立つ場合があります6)
このように、MEGは脳波と相補的な関係にあり、両者を併用すると臨床的に多くの情報を得ることができます5)

神経心理検査

神経心理検査により、高次脳機能(言語・思考・認知・記憶・行為・注意など)に障害があるかを調べます。これにより、高次脳機能障害を数値化し、定量的・客観的に評価することができます。この検査により、てんかん発作そのものや、薬剤が高次脳機能に及ぼす影響、また、局在機能に病変が及ぼす影響について検討が行われます。検査が必要とされる場面として、外科治療の手術適応や術式の決定、術前後の高次脳機能の比較、小児患者の発達評価などがあります5,6)
検査には、知能検査、記憶検査など、多くの種類があります。頻回に検査を行うと、学習効果が生じるため、検査間隔は1年以上あけるのが望ましいとされます。検査前に要素的脳機能である視覚、聴覚、感覚、運動機能は必ず調べておきます5,6)

主な神経心理検査6)

知能検査 WAIS-IV知能検査(成人用)、WISC-IV知能検査(児童用)、田中ビネー知能検査V
記憶検査 WMS-R(ウェクスラー記憶評価尺度・改訂版)、三宅式記銘力検査、ベントン視覚記銘検査、レイ複雑図形検査(ROCFT)、標準言語性対連合学習検査(S-PA)
前頭葉機能検査 WCST(ウィスコンシンカード分類検査)、言語流暢性課題(VFT)、トレイルメイキングテスト、ストループテスト
注意力検査 標準注意検査法(CAT)
遂行機能検査 遂行機能障害症候群の行動評価(BADS)
言語機能検査 標準失語症検査(SLTA)
その他 標準高次動作性検査(SPTA)、標準高次視知覚検査(VPTA)
1)
日本神経学会「てんかん診療ガイドライン」作成委員会 編: 「てんかん診療ガイドライン 2018」 P.15,17,19 医学書院, 2018
2)
小出泰道: 「“てんかんが苦手”な医師のための問診・治療ガイドブック」 P.46-48, 医薬ジャーナル社, 2014
3)
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.60-77法研, 2022
4)
高木康、山田俊幸 編: 「標準臨床検査医学 第4版」 P.370-374, 医学書院, 2013
5)
日本てんかん学会 編: 「てんかん専門医ガイドブック」改訂第2版 P.100, 112-133, 診断と治療社, 2018
6)
井上有史、池田仁 編: 「新てんかんテキスト-てんかんと向き合うための本 改訂第2版」P.39-48, 南江堂, 2021

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