脳卒中後のてんかん
高齢者てんかんの原因
総務省統計局の発表1)によると、2021年10月1日現在、わが国の総人口は減少している一方で、65歳以上の高齢者人口は増加傾向にあり、過去最多です。また、高齢者の総人口に占める割合は世界で最も高くなっていることから、わが国の高齢化は著しく進展しています。
こうした中、高齢者において発症が認められるてんかんは、脳血管障害の一つである脳卒中が原因となるケースが最も多いとされ、高齢発症てんかんの原因の30〜40%を占めるとの報告もあります2,3)。脳卒中後てんかんの発症リスクは出血性脳卒中で26倍、虚血性脳卒中で9.7倍になることが示されており、脳卒中の合併症としててんかんは一般的であり、その管理は重要といえます4)。
脳卒中後の発作とてんかんリスク
脳卒中後の発作は、発現時期によって早期発作と遅発性発作に分けられます。
早期発作とは、主に脳卒中後7日もしくは14日以内におこる発作と定義される発作であり、てんかんに移⾏するリスクは30%程度と報告されています。原因としては、脳神経細胞の障害により引き起こされる急性変化に伴うてんかん発作の閾値低下や、出⾎による⽪質への刺激が考えられています5)。脳卒中の急性期では、まず早期発作である痙攣を抑制することを考慮します。
遅発性発作は脳卒中後7日もしくは14日後におこる発作であり、てんかんに移⾏するリスクが高い(55〜93%)と報告されています。その原因は、発作焦点への持続的変化や虚⾎、出⾎が関与したてんかん原性焦点の形成が考えられています5)。また、ILAEのてんかんの実用的臨床定義においてもてんかんとは「1回の非誘発性(又は反射性)発作が生じ、その後10年間にわたる発作再発率が2回の非誘発性発作後の一般的な再発リスク(60%以上)と同程度である。」状態と記載され、その例の一つとして、「脳卒中発症から1ヵ月以上経過して孤発発作を起こした患者」が挙げられています6)。つまり、脳卒中の慢性期では、遅発性発作として発現したてんかんを正しく診断し、治療を検討することが重要です。
脳卒中後の早期発作と遅発性発作とてんかんのリスク(海外データ)
原因 | てんかんリスク | |
---|---|---|
早期発作 |
原因
急性変化:
てんかん発作の閾値低下
|
てんかんリスク低リスク (29~35%) |
遅発性発作 | 原因
慢性変化: 発作焦点への持続的変化 虚血:
|
てんかんリスク高リスク (55~93%) |
【対象・方法】虚血性及び出血性脳卒中後の発作の発生率及び治療に関連する文献より集計した。
Doria JW, Forgacs PB.: Curr Neurol Neurosci Rep. 19(7), 37, 2019.
遅発性発作のリスク
脳卒中後の遅発性発作はてんかんへ移行するリスクが高いことを考慮しておくことも重要です。
脳出血後の遅発性発作のリスク因子としては、皮質を含む出血、65歳未満、10mL超の血腫あり、脳出血発症から7日以内の早期発作あり、が同定されています。これらの因子を用いたCAVEスコアにより、脳出血後の遅発性発作リスクを予測することができます7)。
また、脳梗塞後の遅発性発作のリスク因子としては、脳梗塞の重症度が高い〔NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)>4〕、主幹動脈のアテローム血栓あり、脳梗塞発症から7日以内の早期発作あり、皮質病変あり、中大動脈領域の病変あり、が同定されています。これらの因子を用いたSeLECTスコアにより、脳梗塞後の遅発性発作リスクを予測することができます8)。
これらのスコアについては、「動画:脳卒中後てんかんの予測と治療」においても解説しております。遅発性発作リスクを参考に、てんかんの適切な診断と治療を考慮することが重要です。
脳卒中後の遅発性発作のリスク因子
脳出血後
- ❶皮質を含む出血
- ❷65歳未満
- ❸10mL超の血腫あり
- ❹早期発作あり(脳出血発症から7日以内)
脳梗塞後
- ❶脳梗塞の重症度が高い(NIHSS>4)
- ❷主幹動脈のアテローム血栓あり
- ❸早期発作あり(脳梗塞発症から7日以内)
- ❹皮質病変あり
- ❺中大動脈領域の病変あり
【対象・方法】脳出血後:2005~2010年に脳出血で入院した患者993例を対象とした観察研究であるHelsinki ICH Study(探索コホート)のレトロスペクティブ解析を行い、脳出血から8日以降に発生する遅発性発作のリスク因子を、変数減少ステップワイズ法を用いた多変量Cox回帰モデルで同定した。
脳梗塞後:2002~2008年に脳梗塞で入院したスイスの1,200例を対象に、脳梗塞から8日目以降に発生する遅発性発作のリスク因子を、変数減少ステップワイズ法を用いたCox比例ハザード回帰モデルで同定した。
Haapaniemi E. et al: Stroke. 45(7), 1971-1976, 2014.
Galovic M. et al: Lancet Neurol. 17(2), 143-152, 2018.
より作表
- 1)
- 総務省統計局ホームページ https://www.stat.go.jp/index.html
- 2)
- Hauser WA. et al: Epilepsia. 34(3), 453-468, 1993.
- 3)
- 辻󠄀貞俊 他: 神経治療学. 29(4), 459-479, 2012.
- 4)
- Herman ST.: Neurology. 59(9 Suppl 5), S21-26, 2002.
- 5)
- Doria JW, Forgacs PB.: Curr Neurol Neurosci Rep. 19(7), 37, 2019.
- 6)
- Fisher RS. et al: Epilepsia. 55(4), 475-482, 2014.
- 7)
- Haapaniemi E. et al: Stroke. 45(7), 1971-1976, 2014.
- 8)
- Galovic M. et al: Lancet Neurol. 17(2), 143-152, 2018.
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