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てんかん症候群

てんかん症候群とは

てんかん症候群は、てんかん発作によって特徴づけられる病態です。発作の症状、脳波、画像、発達の様子など、症状や経過の特徴に共通項を見つけ、これらが共通するグループを「症候群」として分類します1,2)
どの症候群かが判明すれば、これからどのような経過をたどるか、どの薬が効果的か、治療終了後の再発率などをある程度推測することができます1)
てんかん症候群には、乳幼児期に発症するもの、小児期に発症するもの、さまざまな年齢で発症するもの、小児期~若年期に発症し25歳以上での発症はほとんどないもの(特発性全般てんかん)などがあります1)

ILAEてんかん症候群の分類

ILAE(国際抗てんかん連盟)より、2022年時点では以下の「てんかん症候群」の表が提供されています3)
以下の表中の各てんかん症候群の名称をクリックいただくと、それぞれの特徴をご確認いただけます(「CDKL5発達性てんかん性脳症」を除く)。

焦点てんかん 焦点および
全般てんかん
全般てんかん 発達性てんかん性脳症あるいは
進行性神経退行を呈する症候群
新生児期・乳児期に
発症する
てんかん症候群
■焦点てんかん ■焦点および全般てんかん ■全般てんかん ■発達性てんかん性脳症あるいは進行性神経退行を呈する症候群
小児期に発症する
てんかん症候群
■焦点てんかん ■全般てんかん ■発達性てんかん性脳症あるいは進行性神経退行を呈する症候群
さまざまな年齢で
発症するてんかん
症候群
■焦点てんかん ■焦点および全般てんかん ■発達性てんかん性脳症あるいは進行性神経退行を呈する症候群
特発性全般てんかん ■全般てんかん

てんかん症候群の医学的知見は日進月歩であり、ILAEてんかん症候群リストは高い頻度で改訂されるため、より最新の情報を確認する必要があります。

新生児期・乳児期に発症する各てんかん症候群の特徴(特徴については2017年までの情報に基づく)

特徴
自然終息性(家族性)新生児てんかん4) 新生児期に発症する優性遺伝形式をとるてんかんで、発作は新生児期以降に自然に消失します。このため、以前は「良性家族性新生児てんかん」と呼ばれていました。GABA系神経の活動を制御する電位依存性K+チャネルをコードする遺伝子(KCNQ2、3)の異常により興奮性が高まり、てんかん発作をきたします。その後、GABA系神経は抑制性となるため、けいれんは自然に消失すると考えられています。
自然終息性(家族性)乳児てんかん4) 乳児期に発症するてんかんで、1年以内に自然消失します。一部の患者は発作性運動誘発性ジスキネジアを発症します。グルタミン酸神経の興奮性を担うNaチャネルの細胞膜での発現を調整しているPRRT2の変異により、その機能が阻害され、結果的に興奮性が高まり、てんかん発作が起こることが報告されています。
自然終息性(家族性)新生児乳児 てんかん2) 自然終息性(家族性)新生児てんかん、自然終息性(家族性)乳児てんかんと同様に常染色体優性の遺伝形式をとるてんかんです。これらは主に発症年齢に基づいて区別され、典型的には、自然終息性(家族性)新生児てんかんは生後5日以内の発症、自然終息性(家族性)乳児てんかんは生後3~8ヵ月の間の発症とされるのに対し、自然終息性(家族性)新生児乳児てんかんは生後2日目から6ヵ月の間に発症するとされています。自然終息性(家族性)新生児てんかんと同様にKCNQ2変異が主因とされています。
素因性てんかん熱性けいれんプラス(GEFS+)2) 熱性発作が最も多くみられますが、さまざまな症状を示し、焦点発作も含まれます。家族性の症候群で、最低2人の家族が同様の症状を示すことが必要です。予後は良好で、一般的な抗てんかん薬によく反応します。
乳児ミオクロニーてんかん2) 男児よりも女児が多く、発症年齢は通常4ヵ月から3歳です。発症時にはミオクロニー発作は短く、頻度は低いことが多く、上肢と頭部に起こりますが下肢に起こることはまれです。ミオクロニー攣縮は短時間(1~3秒間)で、単発で起こることもあれば、数秒にわたって反復することもあります。
早期乳児発達性てんかん性脳症2) 強直スパズムが主な発作型で、生後3ヵ月以内に発症します。家族内発症例はまれです。発作は単発あるいは群発して生じ、典型的には覚醒中も睡眠中にも生じます。スパズムの持続時間は最大10秒で、間隔は5~15秒です。ミオクロニー発作はまれです。脳の構造的な異常が最も重要な病因となっています。長期的な予後は不良であり、死亡率は高く、生存者にも重度の神経障害と発達遅滞が伴います。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん2) 発作発症は6ヵ月以内で、生後1ヵ月以内に起こることもあります。発作は焦点運動性で、その局在はさまざまです。発作はほぼ持続性で、従来の抗てんかん薬に抵抗性を示します。神経画像に異常は認められません。KCNT1異常が最も多い原因となります。
乳児てんかん性スパズム症候群2) 年齢依存性のてんかん症候群で、てんかん性スパズムと混沌とした脳波異常を特徴とします。発生率は出生1万人あたり2.9人、4.3人との報告があります。出現年齢は3~9ヵ月にピークがあります。2017年ILAEの分類によると、乳児スパズムの原因は、構造性、素因性、感染性、代謝性、免疫性、不明に分類されます。乳児スパズムは多くの場合、きわめて難治性です。予後は一般的に不良で、正常な発達を示す例は15~25%しかありません。
ドラべ症候群(Dravet症候群)2) SCN1A遺伝子の変異が原因で、てんかんと認知機能低下、行動障害、運動機能障害が特徴です。最初の発作は1歳まで(平均5~8ヵ月)に起こります。最初の発作は典型的にはけいれん性で、間代性、両側性または一側性であり、熱で誘発されますが、熱を伴わない場合もあります。発作は、発熱の有無にかかわらず、ほとんどの場合長く、20分以上続き、てんかん重積に進展することもあります。遺伝的背景とてんかんが、認知機能障害を引き起こす可能性があるので、適切な薬でてんかんを治療することが重要です。
病因特異的発達性てんかん性脳症
  • ・KCNQ2発達性てんかん性脳症2)

    KCNQ2の変異があり、重度の臨床像を有します。発症時の典型的な発作は強直肢位を示し、焦点性の間代性攣縮をしばしば伴い、無呼吸と酸素濃度の低下をきたします。Naチャネル阻害薬の抗てんかん薬を使用して良好な発作コントロールが得られたとしても中等度から重度の精神遅滞を通常伴うのが特徴的です。
  • ・ピリドキシン/ピリドキサールリン酸依存性発達性てんかん性脳症2)

    α-アミノアジピン酸セミアルデヒド脱水素酵素の欠損による常染色体劣性遺伝の疾患です。生後1週以内に、焦点発作、ミオクロニー発作、てんかん性スパズムで難治性てんかんが発症することが多いです。
  • ・PCDH19群発てんかん2)

    SCN1A異常はなく、X連鎖プロカドヘリン19(PCDH19)遺伝子異常をもつ女児では、ドラべ症候群とよく似た症候がみられます。6~36ヵ月で発症します。群発して起こる焦点発作が主体であり、発作は情動症状を伴います。光過敏はまれで、発作は小児期に寛解します。
  • ・GLUT1欠損症発達性てんかん性脳症4)

    血液脳関門を介した脳内へのグルコース輸送が障害されることを原因とする、乳児期発症のてんかん性脳症です。乳児期早期に発症するてんかんと異常眼球運動、それに引き続く知的発達症、さまざまな不随意運動を認めます。抗てんかん薬による治療に不応なことが多い一方、脳へのエネルギー供給を行うケトン食療法が有効であることが多くみられます。
  • ・スタージ・ウェーバー症候群4)

    脳軟膜毛細血管奇形、顔面のポートワイン母斑、緑内障を主病変とし、難治てんかん、知的発達症、運動麻痺などを併発します。乳児期に発作を初発します。てんかんに対しては、抗てんかん薬による治療が行われますが、難治性てんかんにはケトン食や脳外科的治療も考慮します。
  • ・視床下部過誤腫による笑い発作4)

    視床下部過誤腫を視床下部から付着部で完全に離断することにより、笑い発作が消失します。笑い発作の発作症候発現には、視床下部から視床背内側核、脳幹、小脳に至るネットワークが関与しています。笑い方はさまざまですが、各患者でステレオタイプの笑いを生じています。認知機能障害や行動異常などの精神障害も伴いやすく、てんかん脳症としての側面ももちます。

小児期に発症する各てんかん症候群の特徴

特徴
小児期の自然終息性焦点てんかん2)

自然終息性焦点てんかんには複数のタイプが存在します。無熱性発作をもつ小児の25%を占めています。神経学的、精神医学的状態、脳画像は正常です。診断に最も有用なのは、脳波の検査です。

  • ・中心側頭部棘波を示す自然終息性てんかん2)

    最も多い自然終息性焦点てんかんです。75%が7~10歳に発症し、男児で多く、女児の1.5倍です。片側顔面の感覚運動発作、口腔・咽頭・喉頭部の症状、発語停止などが症状としてみられます。
  • ・自律神経発作を伴う自然終息性てんかん2)

    1~14歳に発症し、76%が3~6歳で発症します。どの人種にも起こり、男女ともほぼ同等に罹患します。発作は、主に自律神経症状から始まり、嘔吐が最もよくみられます。典型的な発作では、当初は意識がはっきりしており、会話や理解が可能ですが、「気分が悪い」と訴えて顔面が蒼白になり、嘔吐します。
  • ・小児後頭視覚てんかん2,4)

    Panayiotopoulos症候群及びGastaut型小児後頭葉てんかんは、現在「自然終息性小児後頭葉てんかん」と総称されています。このうち、Gastaut型は、視覚症状(ちかちか・ぴかぴかする、目が見えない、物が大きくまたは小さく見えるなど)が特徴で、しばしば片側のけいれんを伴い、発作後の頭痛もよくみられます。初発のピークは8~9歳で、15ヵ月~19歳で発症しています。男児も女児も等しく罹患します。
  • ・光過敏後頭葉てんかん2,4)

    光感受性(光過敏)後頭葉てんかんは、光突発反応(PPR、間欠的光刺激による全般性てんかん様反応)が後頭領域に限定してしばしば長い視覚刺激の後に出現します2)
    特発性光感受性(光過敏)後頭葉てんかんの発症年齢は5~17歳でやや女性に多く、家族歴があります。発作症状はテレビ視聴などで誘発され、視覚症状を伴います。神経学的検査による異常はありません4)
欠神てんかん
  • ・ミオクロニー欠神発作を伴うてんかん2)

    ミオクロニー欠神を特徴とし、診断は臨床的観察とポリグラフ記録およびビデオ記録に基づきます。小児てんかんの0.5~1%しか占めていません。発症の年齢は平均7歳です。
眼瞼ミオクロニーを伴う
てんかん2)
発症は通常、小児期早期(2~14歳)ですが、発作は成人期まで持続します。発作は短く(3~6秒)、主に閉眼後に生じます。発作では眼瞼ミオクローヌスが終始みられます。眼瞼ミオクローヌスは、律動的で速い顕著な眼瞼の攣縮であり、しばしば攣縮性の眼球上転や頭部後屈を伴います。発作が長引けば、意識障害を伴います。意識障害の強さは軽度または中等度で、自動症は伴いません。小児期には著明な光感受性を示します。
ミオクロニー脱力発作を伴う
てんかん2)
ミオクロニー失立(あるいは脱力発作)、欠神発作、脱力発作、全般性強直間代発作、強直発作などの複数の発作型をもち、生後7ヵ月~6歳に発症する器質性脳病変のない小児の全般てんかんです。比較的まれなてんかんであり、10歳までに発症するすべての小児てんかんの1~2.2%であり、男児に多くみられます。患児の14~32%にてんかんの家族歴を認め、遺伝学的要因(SLC2A1遺伝子、SCN2A遺伝子など)が重要な役割を果たしているとされます。臨床経過はさまざまであり、予測は困難です。50~89%の患者で発作は3年以内に寛解に向かいます。
レノックス・ガストー症候群2) 突然の転倒を含めた発作を頻回に繰り返し、進行性の認知機能障害を伴う、小児期における最も重症なてんかん性脳症の一つです。発症は3~5歳が主で、10歳以降の発症はまれです。強直発作が最も特徴的な発作型で、発作時間はたいてい短く、意識はしばしば消失し、頭部と体幹の伸展に限られます。多くの場合は慢性の経過をたどり、80%以上が成人期に発作が持続し、自立した生活ができる人は少数にとどまります。薬剤抵抗性があるため治療は困難です。
睡眠時棘徐波活性化を示す発達性
てんかん性脳症あるいは睡眠時棘徐
波活性化を示すてんかん性脳症4)
徐波睡眠期の脳波に、両側広範性棘徐波複合が連続して出現し、その割合が85%以上を示すものと定義されています。発作型として、片側性または両側性の、間代発作または強直間代発作、時に脱力発作をきたしますが、強直発作は認めません。発作は概ね消失します。知的予後はさまざまです。
発熱感染症関連てんかん症候群
(FIRES)5)
難治頻回部分発作重積型急性脳炎(AERRPS)、new-onset refractory status epilepticus(NORSE)などとも呼ばれ、これらは概ね同一の疾患概念と考えられています。AERRPSは基礎に明らかな神経学的異常を有さない小児に発症します。発症年齢は幼児・学童期にピークがあり、男児に多い傾向があります。しばしば先行感染を認め、平均5日間の潜伏期を経て神経症状が出現します。初発神経症状はほぼ例外なくけいれんで、必ず発熱を伴います。けいれんはいずれも焦点発作で、発作型としては眼球偏位・顔面間代などが多く、急性期には二次性全般化を伴います。けいれんの持続は数分程度ですが、ピーク時には5~15分間隔で極めて頻発します。けいれんは極めて難治で、通常の抗てんかん薬に著しい抵抗性を示します。知的障害を高率に合併し、半数近くが長期臥床となるなど予後は不良です。
片側けいれん・片麻痺・てんかん
(HHE)6)
一般には4歳未満の小児における非特異的熱性疾患に伴うことが多く、てんかんの発症は、片側けいれん・片麻痺症候群発症からおよそ4年以内が多いとされます。非特異的感染症(多くはウイルス感染症)による発熱が契機となる片側大脳半球が優位に傷害される急性脳症として発症します。発熱を契機に、けいれん性てんかん重積状態で発症します。けいれんは片側性又は片側優位であることが多く、その後同側に弛緩性麻痺を呈します。麻痺は1週間以上持続し、一部は一過性で改善しますが、多くは恒久的に痙性片麻痺が残存します。

さまざまな年齢で発症するてんかん症候群

特徴
海馬硬化を伴う内側側頭葉
てんかん4)
内側側頭葉てんかんは、海馬硬化を有する症例が代表的です。発病は4~16歳頃が多く(ほとんどが20歳以前)、熱性けいれん重積、外傷、低酸素脳症、中枢神経感染症などの既往を乳幼児期にもつことが多いてんかんです。焦点意識減損発作が初発し、薬物治療でいったん寛解することもありますが、再発すると難治に経過しやすいです。多くの症例で自律神経性の前兆(上腹部上行性の不快感など)や精神性の前兆(恐怖感、既視感など)を認め、意識を失う場合では、一点凝視、口部自動症、身ぶり自動症などがみられます。脳波では側頭前部に発作間欠期棘波を認め、発作時脳波では、側頭部にθ帯域の律動波が典型的に認められます。MRIでは一側性の海馬硬化、FDG-PETでは患側の側頭葉の低代謝を認めます。外科治療の成績も優れ、側頭葉前部切除術と選択的扁桃体海馬切除術があります。
ラスムッセン症候群4) 神経症状のない健常者の先行感染症(上気道炎など)やワクチン接種後に、限局的に細胞傷害性T細胞を主役とした自己免疫性炎症が起こり、てんかん発作を発症します。難治に経過し、次第に片麻痺・知的能力症などが出現します。半球性の萎縮が明らかとなり、適切な治療がない状態では「寝たきり」となる慢性進行性の疾患です。初発てんかんの発作型は、焦点意識減損発作、焦点起始両側強直間代発作、焦点意識保持発作、焦点運動起始発作などが多く、徐々にてんかん発作頻度が増加します。運動機能障害では単肢麻痺-片麻痺と進行し、知的退行も出現し、成人では精神症状も出現することがあります。発病年齢が若いほど進行が早いです。髄液Granzyme Bは細胞傷害性T細胞マーカーで、発病初期に高値で、髄液GluN2B抗体は発病してからしばらくして陽性化することが多く、診断に役立ちます。
進行性ミオクローヌスてんかん
(PME)4)

ミオクローヌス、てんかん発作、小脳性運動失調、認知機能障害を特徴として、進行性の経過を呈する遺伝性疾患群の総称です。基礎疾患は、中枢神経系の灰白質を傷害する多彩な遺伝性の神経変性疾患、先天性代謝異常から構成され、本邦において一定頻度で認められる疾患には以下のものがあります。

  • ・歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)

    第12番染色体短腕のATN1遺伝子翻訳領域のCAGリピートが異常伸長することによって生じるポリグルタミン病です。PMEは急速に進行し、小脳性運動失調、舞踏アテトーシスなどの不随意運動も合併します。
  • ・myoclonic epilepsy with ragged red fibers(MERRF)

    ミトコンドリアDNAの変異により生じるミトコンドリア病です。発症年齢は幅広いですが、10歳前後でPMEを発症し、小脳性運動失調、筋力低下・筋萎縮、知的障害、感音難聴が徐々に進行し、まれに心筋症、網膜色素変性、錐体路徴候を合併します。血清・髄液中の乳酸・ピルビン酸の高値、病期の進行に伴う神経画像上の大脳・小脳萎縮がみられます。
  • ・神経セロイドリポフスチン症(NCL)

    脂質含有蛋白異化酵素の異常により、自家蛍光を有するリポフスチン様物質が沈着する疾患で多様な病型に分けられます。小児例では小脳性運動失調、知的障害、視力低下が急速に進行し、成人型ではPMEと知的障害が緩徐に進行します。
  • ・Unverricht-Lundborg病(ULD)

    大部分がcystatin B遺伝子変異により生じ、6~15歳頃に、全般強直間代発作、ミオクローヌスで発症し、知的障害と小脳性運動失調が緩徐に進行します。臨床症状に個体差が大きく、知的障害が軽い症例も多く、高齢まで生存する場合もあります。
  • ・Lafora病

    約90%の患者でEPM2AとEPM2Bの変異がみられます。7~18歳頃、全般強直間代発作、欠神発作、ミオクロニー発作が発症し、ミオクローヌス、知的障害、小脳性運動失調が緩徐に進行します。ミオクローヌスは光・音・精神的緊張などにより誘発されやすく、数年で寝たきりとなります。原因遺伝子検索に加えて、皮膚・粘膜生検により診断されます。
  • ・良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(benign adult familial myoclonus epilepsy: BAFME)

    3つの遺伝子のイントロン領域に存在する繰り返し配列(TTTCA)の異常伸長で発症します。日本人に多くみられ、20~60歳で、手指の細かいふるえ(振戦様ミオクローヌス)とてんかんを呈します。てんかん発作の頻度は高くなく、抗てんかん薬によりコントロールされます。
  • ・Gaucher病Ⅲ型

    GBA遺伝子変異に基づく、β-glucocerebrosidaseの活性低下により、glucocerebrosideが網内系と中枢神経系に蓄積し、肝脾腫、貧血・血小板減少症、骨症状が出現します。神経症状の有無と重症度から非神経型(Ⅰ型)と神経型(Ⅱ型、Ⅲ型)に分類され、Ⅲ型は10歳台前半にPMEを発症します。小脳性運動失調、水平性眼球運動障害が緩徐に進行します。
  • ・シアリドーシス

    NEU1遺伝子変異に基づくsialidase活性低下により、中枢神経系、骨などにシアル酸/オリゴ糖複合体が蓄積し、PME、視力低下が出現します。顔貌・骨の異常(腰椎骨前面のくちばし状変形)や知的障害を伴わない軽症型のⅠ型、顔貌・骨の異常を伴いⅠ型より早期に発症するⅡ型に分けられます。
  • ・ガラクトシアリドーシスⅡ型

    Sialidase活性化に関与するprotein/cathepsin A遺伝子(PPCA)変異により、cathepsin Aとsialidaseの活性が低下し、発症します。発症年齢と重症度により3つの臨床型に分類され、Ⅱ型(若年・成人型)でPMEを呈します。10歳前後にPMEに加えて視力低下、小脳性運動失調が出現し、被角血管腫、粗な顔貌、骨変形も合併します。
家族性内側側頭葉てんかん
(FMTLE)2)
典型例では、熱性発作の既往がなく、MRIでの異常を認めません。内側側頭由来の前兆があり、既視感は最もよくみられる精神症状です。その他、恐怖、嘔気、頻脈、スローモーション感、および複雑な視覚性または聴覚性の錯感覚があります。全身のしびれやチクチク感のような体性感覚性の前兆もあります。焦点意識保持発作(前兆)は約90%、焦点意識減損発作は約65%にみられます。発作症状は、家族内でも多様です。経過は通常良好です。
海馬硬化を伴い、熱性発作をさまざまな程度に有する重症の側頭葉てんかん家系では、てんかんは30歳までに始まり、薬物療法に抵抗性を示します。
熱性発作と側頭葉発作の両方をもち、MRIで海馬異常のない数家系も報告されています。
睡眠関連運動亢進てんかん
(睡眠関連過運動てんかん/
夜間前頭葉てんかん)2,4)
平均発症年齢は8~11.5歳であり、85%が20歳未満に発症します。発作は睡眠中に起こり、一晩あたり平均8回の発作が典型的には数時間の間に群発します。発作は非特異的な前兆で始まり、運動亢進、強直あるいはジストニーを伴う運動発作となります。持続時間は通常1分以内と短い発作となります。主な誘発因子は睡眠不足とストレスです。てんかんの発作症状は、1家系内でも一人一人で大きく異なります。
多様な焦点を示す家族性焦点
てんかん(FFEVF)2,4)
家系内で異なる皮質領域から生じる焦点起始発作を有する常染色体優性の焦点てんかんです。発症年齢は乳児~成人期と広範囲にわたります。発作症状から、患者の多くは前頭葉または側頭葉の発作焦点を有すると考えられています。家系例において、DEPDC5遺伝子の変異が報告されています。
聴覚症状を伴う(常染色体優性)
てんかん(ADEAF)2)
青年期後期に発症する自然終息性、薬剤反応性の症候群で、全体として良好な予後を示します。最もよくみられる発作症状は、音が鳴る、ブンブンいうような幻聴ですが(患者の36~55%)、幻視、嗅覚症状、失語発作など他の症状が単独あるいは合併して生じることもあります。発作は外部からの騒音で引き起こされることがあります。発作間欠期脳波は、正常または軽度の異常を示します。
読書誘発発作を伴うてんかん2) 読書や会話に関与する筋肉の運動発作に加えて、少数例で視覚症状や眼症状が起こります。

特発性全般てんかん

特徴
欠神てんかん2)
  • ・小児欠神てんかん

    学童期に発症し、発現のピークは6~7歳です。強い遺伝学的素因があり、女児の方が男児よりも高頻度です。短時間(4~20秒)の欠神発作が、1日に数十回以上起こります。強い意識障害や消失が起き、発作中、随意運動は停止します。通常、12歳までに寛解します。
  • ・若年欠神てんかん

    発症年齢は思春期前後であり、神経学的、知的な障害がないことを特徴とします。小児欠神てんかんよりも長く頻度の少ない発作が100%の患者でみられます。若年欠神てんかんは重症ではありませんが、生涯にわたって続きます。
若年ミオクロニーてんかん2) 非常によくみられるてんかんで、全てんかんの5~10%を占めるといわれます。ミオクロニー発作、全般性強直間代発作、定型欠神発作の3種類の発作型のすべてが起こり得る疾患です。主要症状のミオクロニー発作は診断に必須であり、誘因なく起こり、発作は短く、不随意で、突然起こり、左右対称性で、さまざまな強度で生じ、あきらかな意識障害はありません。全般性強直間代発作は、80~95%の患者で起こります。定型欠神発作はまれで、持続は短く、ほとんどが軽い意識障害を伴った単純定型欠神発作として認められます。
全般強直間代発作のみを伴うてんかん2) 多くは10代に発症します。起床後まもなくに、全般性強直間代発作が90~100%の頻度で起きます。発作は睡眠不足や他の外的要因により誘発されます。遺伝学的素因は比較的よく認められます。予後は良好で、そもそも発作が少なく、治療に対する反応性も良好です。
1)
赤松直樹 監修: 「ウルトラ図解 てんかん」 P.40-41 法研, 2022
2)
井上有史 監訳: 「てんかん症候群 第6版-乳幼児・小児・青年期のてんかん学」. 中山書店, 2021 
3)
ILAE(International League Against Epilepsy: 国際抗てんかん連盟)_ Epilepsy Syndromes in Translation_ Japanese:
https://www.ilae.org/guidelines/definition-and-classification/classification-and-definition-of-epilepsy-syndromes
4)
日本てんかん学会 編: 「てんかん専門医ガイドブック 改訂第2版」 診断と治療社, 2018
5)
日本小児神経学会 監修: 「小児急性脳症診療ガイドライン 2016」 , P.101, 診断と治療社, 2016
6)
難病情報センター, 片側痙攣・片麻痺・てんかん症候群(指定難病149) https://www.nanbyou.or.jp/entry/4409 

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