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認知症に潜むてんかん

てんかんと認知症の併発

高齢者ではてんかんの発症率が上昇することが知られており1)、認知症に代表される神経変性疾患の合併率も高くなっています2)。また、認知症におけるてんかん有病率は1.5~64%と報告によりさまざまですが3)、非誘発性発作のリスクが6倍高くなるとの報告4)やアルツハイマー型認知症の認知機能低下を引き起こしている病態生理がてんかん発作にも関与するという報告5)もあるため、高齢者においてはてんかんと認知症の併発を考慮することが、てんかんを適切に診断する上で重要であると考えられます。

年齢調整したアルツハイマー型認知症患者と正常者との
累積てんかん発生率(海外データ)
年齢調整したアルツハイマー型認知症患者と正常者との累積てんかん発生率(海外データ)

【対象・方法】台湾の保健福祉データベースから無作為に2000~2010年の100万人分のデータを抽出した。抽出されたデータのうち981例のアルツハイマー型認知症患者及びコントロール3,835例に対してプロペンシティマッチングで調整後、てんかんの発生率を比較した。

Cheng C-H, et al: Epilepsy Res. 115, 63-66, 2015.

高齢者てんかんの鑑別

高齢初発てんかんの発作症状は、けいれんを伴わない焦点意識減損発作(複雑部分発作)のみを示すものが半数近くを占めます6)。主な症状としては、ぼんやりと一点を見つめるような動作停止や、無意識に手をモゾモゾ動かす、口をモグモグさせるといった自動症がみられます7)。また、高齢者てんかんでは側頭葉に発作焦点があることが多く、エピソード記憶が抜け落ちるなどの記憶障害や、発作後のもうろう状態が長引くなどの特徴があり、認知症による物忘れや認知機能低下と間違われ、見過ごされてしまうケースもあります7, 8)
これらの鑑別には丁寧な病歴聴取が重要です7)。てんかんでは発作時以外の認知機能はおおむね正常であることや、記憶障害の程度が日によって大きく変動することも鑑別の参考になります。ただし、てんかんと認知症を併発することもありますので、脳波検査、認知機能検査などを用いた慎重な精査が必要です8)

高齢者てんかんによくみられる症状

ぼんやりと一点を見つめるように動作が停止する

ぼんやりと一点を
見つめるように、
動作が停止する

無意識に手をモゾモゾ動かす

無意識に、
手をモゾモゾ動かす

口や舌・唇を無意識に動かす

口(モグモグさせる)や
舌・唇(クチャクチャ鳴らす)を
無意識に動かす

エピソード記憶の障害

エピソード記憶の
障害

松本理器: 老年精神医学雑誌. 31(増刊-1), 101-106, 2020.より作成

高齢者てんかん治療のポイント

高齢者てんかんは鑑別すべき疾患が多い一方で、発作消失率は80%以上と治療反応性が良好といわれています9)。ただし、加齢に伴う生理学的変化(肝機能や腎機能の低下など)や併存疾患の存在など、高齢者特有の問題を考慮する必要があります。多剤併用状況下での相互作用により、薬剤の効果の減弱や副作用の発現もあるため、抗てんかん薬を用いる際は少量から開始し、漸増していくことで、忍容性を考慮することも検討の一つです8)

高齢者の薬剤選択において考慮すべきポイント
高齢者の薬剤選択において考慮すべきポイント
1)
Haut SR, et al: Lancet Neurol. 5(2), 148-157, 2006.
2)
Cheng C-H, et al: Epilepsy Res. 115, 63-66, 2015.
3)
Friedman D, et al: CNS Neurosci Ther. 18(4), 285-294, 2012.
4)
Hesdorffer DC, et al: Neurology. 46(3), 727-730, 1996.
5)
Larner AJ: Neuromolecular Med. 12(1), 71-77, 2010.
6)
田中章浩: 神経治療学. 30(3), 296-300, 2013.
7)
松本理器: 老年精神医学雑誌. 31(増刊-1), 101-106, 2020.
8)
渡辺裕貴 他: 老年精神医学雑誌. 29(1), 56-62, 2018.
9)
Mohanraj R, Brodie MJ: Eur J Neurol. 13(3), 277-282, 2006.

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