国際てんかん分類の変遷
変遷
ILAE(国際抗てんかん連盟)による1981年てんかん発作型分類、1989年てんかんとてんかん症候群分類は、世界中で広く用いられてきました。
これらの分類の長所は、以下の2つありました。
- ①てんかん発作を発作起始により全般発作、部分発作に分けることにより、薬物選択の基本方針が決まった。
- ②てんかん病型を発作型と病因により特発性全般てんかん、症候性全般てんかん、特発性局在関連性てんかん、症候性局在関連性てんかんの4群に大別することにより、治療方針(薬剤選択)と、長期的な治療反応性のおおまかな予測を立てることができた。
国際てんかん分類の変遷:ILAE
国際てんかん発作型分類(1981年)
Ⅰ.部分(焦点、局所)発作
A 単純部分発作(意識減損〔意識障害〕はない)
1.運動徴候を呈するもの
- a)マーチを示さない焦点運動性
- b)マーチを示す焦点運動性(Jackson型)
- c)偏向性(方向性)
- d)姿勢性
- e)音声性(発声あるいは言語制止〔言語停止〕)
2.体性感覚あるいは特殊感覚症状を呈するもの(単純幻覚、例えば、ヒソヒソ、ピカピカ、ブンブン)
- a)体性感覚性
- b)視覚性
- c)聴覚性
- d)嗅覚性
- e)味覚性
- f )目眩性(めまい性)
3.自律神経症あるいは徴候を呈するもの(上腹部感覚、蒼白、発汗、紅潮、立毛、散瞳を含む)
4.精神症状(高次大脳機能障害)を呈するもの〔これらの症状は、まれには意識減損(意識障害)を伴わずに起こることもあるが、多くは複雑部分発作として経験される〕
- a)言語障害性
- b)記憶障害性(たとえば、既視感)
-
- c)認識性(たとえば、夢様状態、時間感覚の変容)
- d)感情性(恐怖、怒り、など)
- e)錯覚性(たとえば、巨視症)
- f )構造幻覚性(たとえば、音楽、光景)
B 複雑部分発作 意識減損(意識障害)を伴う、時には単純部分発作をもって始まることもある〕
1.単純部分発作で始まり、意識減損(意識障害)に移行するもの
- a)単純部分発作(A-1~A-4)で起こり、意識減損(意識障害)に移行するもの
- b)自動症を伴うもの
2.意識減損(意識障害)で始まるもの
- a)意識減損(意識障害)のみのもの
- b)自動症を伴うもの
C 部分発作から二次的に全般化するもの(これは全般強直ー間代、強直、あるいは間代発作でありうる)
- 1.単純部分発作(A)が全般発作に進展するもの
- 2.複雑部分発作(B)が全般発作に進展するもの
- 3.単純部分発作が複雑部分発作を経て全般発作へと進展するもの
Ⅱ.全般発作(けいれん性あるいは非けいれん性)
A-1.欠神発作
- a)意識減損(意識障害)のみのもの
- b)軽度の間代要素を伴うもの
- c)脱力要素を伴うもの
- d)強直要素を伴うもの
- e)自動症を伴うもの
- f )自律神経要素を伴うもの
(b)~f )は単独でも組み合わせでもありうる)
A-2.非定型欠神
- a)筋緊張の変化はA-1に比べ、よりはっきりしている
- b)発作の起始およびもしくは終末は急激ではない
B.ミオクロニー発作(単発あるいは連発)
C.間代発作
D.強直発作
E.強直間代発作
F.脱力発作(失立発作)
(上記のものの重複、例えばBとF、BとDとの重複が起こりうる)
Ⅲ.上記の分類に含まれていないてんかん発作
松浦雅人 他:「てんかん診療のクリニカルクエスチョン200 改訂第2版」 P.10, 診断と治療社, 2013
てんかん、てんかん症候群および関連発作性疾患の国際分類(1989年)
1. 局在関連性(焦点性、局所性、部分性)てんかんおよび症候群
1.1 特発性(年齢に関連して発病する)
- ・中心・側頭部に棘波をもつ良性小児てんかん
- ・後頭部に突発波をもつ小児てんかん
- ・原発性読書てんかん
1.2 症候性
- ・小児の慢性進行性持続性部分てんかん
- ・特異な発作誘発様態をもつてんかん
- ・側頭葉てんかん
- ・前頭葉てんかん
- ・頭頂葉てんかん
- ・後頭葉てんかん
1.3 潜因性
2. 全般てんかんおよび症候群
2.1 特発性(年齢に関連して発病する。年齢順に記載)
- ・良性家族性新生児けいれん
- ・良性新生児けいれん
- ・乳児良性ミオクロニーてんかん
- ・小児欠神てんかん(ピクノレプシー)
- ・若年欠神てんかん
- ・若年ミオクロニーてんかん(衝撃小発作)
- ・覚醒時大発作てんかん
- ・上記以外の特発性全般てんかん
- ・特異な発作誘発様態をもつてんかん
2.2 潜因性あるいは症候性(年齢順)
- ・West症候群(infantile spasms,電撃・点頭・礼拝けいれん)
- ・Lennox-Gastaut症候群
- ・ミオクロニー失立発作てんかん
- ・ミオクロニー欠神てんかん
2.3 症候性
2.3.1 非特異病因
- ・早期ミオクロニー脳症
- ・サプレッション・バーストを伴う早期乳児てんかん性脳症
- ・上記以外の症候性全般てんかん
2.3.2 特異症候群
3. 焦点性か全般性か決定できないてんかんおよび症候群
3.1 全般発作と焦点発作を併有するてんかん
- ・新生児発作
- ・乳児重症ミオクロニーてんかん
- ・徐波睡眠時に持続性棘徐波を示すてんかん
- ・獲得性てんかん性失語(Landau-Kleffner症候群)
- ・上記以外の未決定てんかん
3.2 明確な全般性あるいは焦点性のいずれの特徴をも欠くてんかん
4. 特殊症候群
4.1 状況関連性発作(機会発作)
- ・熱性けいれん
- ・孤発発作、あるいは孤発のてんかん重積状態
- ・アルコール、薬物、子癇、非ケトン性高グリシン血症等による急性の代謝障害や急性中毒の際にのみ見られる発作
日本てんかん学会: てんかん研究 9(1), 84-85, 1991
しかしながら、発作分類では、全般発作と分類されていた発作型の一部に部分起始の発作もあり得ることや、部分発作と全般発作が必ずしも明瞭に区別できないこと、病型分類では症候性全般てんかんのある種の症候群では、一人の患者に部分発作と全般発作を併せもつことがよくありてんかん病型分類が困難であることなど、分類の限界や矛盾も明らかとなっていきました。さらに、遺伝子研究の進歩で、病因を単純に特発性と症候性に二分することの限界が明確になってきました。
その後、これらの限界、矛盾を改善すべく、以下のような診断スキームの提示や用語・概念の改訂が相次いで行われました。
2001年改訂:
てんかん発作型のリストが改変・拡充され、病型を4つに分けることの破棄、5軸の診断スキームの提唱、「部分発作」を「焦点発作」に変更などが提案されました。
2006年改訂:
発作型分類が改訂され、発症年齢別のてんかん症候群と関連病態のリストが示されました。
2010年改訂:
てんかん発作とてんかんを体系化するための用語と概念の改訂が発表されました。発作分類の若干の改変と、いくつかの用語の名称が変更されました。また、てんかん症候群の整理の一例として発症年齢別の症候群リストが示されました。
てんかんの分類(ILAE 2010年)
脳波・臨床症候群(発症年齢別)a | |
---|---|
新生児期 | 良性家族性新生児てんかん、早期ミオクロニー脳症、大田原症候群 |
乳児期 | 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん、West症候群、乳児ミオクロニーてんかん、良性乳児てんかん、良性家族性乳児てんかん、Dravet症候群、非進行性疾患のミオクロニー脳症 |
小児期 | 熱性けいれんプラス(乳児期から発症することがある)、早発良性小児後頭葉てんかん症候群、ミオクロニー脱力(旧用語:失立)発作を伴うてんかん、中心側頭部棘波を示す良性てんかん、常染色体優性夜間前頭葉てんかん、遅発性小児後頭葉てんかん(Gastaut型)、ミオクロニー欠神てんかん、Lennox-Gastaut症候群、睡眠時持続性棘徐波(CSWS)を示すてんかん性脳症b、Landau-Kleffner症候群、小児欠神てんかん |
青年期・成人期 | 若年欠神てんかん、若年ミオクロニーてんかん、全般強直間代発作のみを示すてんかん、進行性ミオクローヌスてんかん、聴覚症状を伴う常染色体優性てんかん、その他の家族性側頭葉てんかん |
年齢との関連性が低いもの | 多様な焦点を示す家族性焦点性てんかん(小児期から成人期)、反射てんかん |
a この脳波・臨床的症候群の配置は病因を反映したものではない。
b 徐波睡眠時てんかん放電重積状態とも呼ぶこともある。
明確な特定症状群
海馬硬化症を伴う内側側頭葉てんかん、Rasmussen症候群、視床下部過誤腫による笑い発作、片側けいれん・片麻痺・てんかん、これらの診断カテゴリーのいずれにも該当しないてんかんは、最初に既知の構造的/代謝性疾患(推定される原因)の有無、次に主な発作の発現様式(全般または焦点性)に基づいて識別することができる。
構造的/代謝性の原因に帰するてんかん(原因別に整理)
- ・皮質形成異常(片側巨脳症、異所性灰白質など)
- ・神経皮膚症候群(結節性硬化症複合体、Sturge-Weber症候群など)
- ・腫瘍
- ・感染
- ・外傷
- ・血管腫
- ・周産期脳障害
- ・脳卒中
- ・その他
原因不明のてんかん
てんかん発作を伴う疾患であるがそれ自体は従来の分類ではてんかん型として診断されないもの
- ・良性新生児発作
- ・熱性けいれん
日本てんかん学会: てんかん研究 28(3), 515-525, 2011
残念ながら、これら一連の改訂はあまり浸透しませんでした。そこで、ILAEは協議を重ね、2017年に「てんかん分類」、「てんかん発作型分類」を新たに発表しました1)。
ILAE2017年てんかん分類
2017年に発表されたてんかん分類では、①発作型を分類し、②てんかん病型を決め、③てんかん症候群の診断を行う、という3段階で診断します。①~③のすべての段階において、④病因を明らかにします。最後に、⑤併存症(知的障害、学習障害、運動障害など)、すなわちてんかんとともに存在する疾患に注意を払い、早期発見と適切な治療を行います2)。
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ILAE2017 てんかん分類の枠組み
ILAE2017年てんかん発作型分類
2017年に発表されたてんかん発作型分類では、発作の始まる脳部位により「焦点起始発作」と「全般起始発作」の大きく二つに分けています。また、始まりが判断できないものを「起始不明発作」、情報がないものを「分類不能発作」としました2)。
「焦点起始発作」では、発作中に意識が保たれている場合は「焦点意識保持発作」、意識や記憶が障害されているものは「焦点意識減損発作」と呼ばれます。また、体の動きが目立つものは「焦点運動起始発作」、目立たないものを「焦点非運動起始発作」と呼びます。また、焦点で始まった興奮が脳全体に広がり全身のけいれん性運動を呈する発作は、「焦点起始両側強直間代発作」と呼ばれます2)。
「全般起始発作」は発作中には意識が損なわれているものと考えられているため、意識の有無の分類はなく、運動発作と非運動発作に分けられます2)。
発作起始が焦点性か全般性かを80%以上の確実性で判断できない場合には「起始不明発作」に分類します。主症状が運動性か非運動性かで二分します。情報が不十分あるいは、通常はみられないような特徴の発作では、発作が分類できない可能性があり、その場合には「分類不能発作」とします1)。
ILAE2017年発作型分類 -拡張版-
焦点起始発作 Focal Onset |
焦点意識保持発作 Aware 焦点意識減損発作 Impaired Awareness |
焦点運動起始発作 Motor Onset
自動症発作 automatisms 脱力発作 atonic 間代発作 clonic てんかん性スパズム epileptic spasms 運動亢進発作 hyperkinetic ミオクロニー発作 myoclonic 強直発作 tonic 焦点非運動起始発作 Nonmotor Onset
自律神経発作 autonomic
動作停止発作 behavior arrest 認知発作 cognitive 情動発作 emotional 感覚発作 sensory |
焦点起始両側強直間代発作
focal to bilateral tonic-clonic |
焦点意識減損発作 Impaired Awareness |
|||
全般起始発作 Generalized Onset |
全般運動発作 Motor
強直間代発作 tonic-clonic
全般非運動発作(欠神発作)Nonmotor(Absence)
定型欠神発作 typical |
||
起始不明発作 Unknown Onset |
起始不明運動発作 Motor
強直間代発作 tonic-clonic 起始不明非運動発作 Nonmotor 動作停止発作 behavior arrest |
||
分類不能発作 Unclassified |
日本てんかん学会: てんかん研究 37(1), 15-23, 2019、許可を得て掲載、一部改変
- 1)
- 日本てんかん学会 編:「てんかん専門医ガイドブック 改訂第2版」 P.5-12, 診断と治療社, 2018
- 2)
- 井上有史、池田仁 編:「新てんかんテキスト-てんかんと向き合うための本 改訂第2版」 P.12-14, 南江堂, 2021
JP-P-DA-EPI-2300035